健康になるための魔法の杖はない(121)

2024年12月24日

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「お米は実にいい主食なんだよ」と福場さんはいう。

主食は民族や地域によって違う。大きく分けると米と小麦、そして芋の地域がある。稲作が中国からもたらされたのは縄文後期だとされている。雨が多く、多湿の日本によほど向いていたのか、古代人もそれまでやっていた狩猟採取をやめ、稲作は全国に広がった。以来、お米は主食の座に収まって久しい。

世界を見ると、米を主食にするアジアと小麦を主食にする欧米の地域に分かれる。ただし栄養的にはタンパク質で比べると、小麦より米の方がずっと優れているそうだ。

「しかも玄米の状態だと、ビタミンC以外はすべての栄養素を含んでいるんです」

それに引き換え芋には毒性があるものが多い。だから主食にする地域では風土病のようなものがあるそうだ。福場さんは毎年、フィリピンに行って研究しているので詳しいようだ。

「米国で日本食が健康に良いと評価されたのはご飯のせいもあるんだろうね」と渡辺先生。

ただし日本食というと、ご飯に味噌汁、おかずといった食生活を思い浮かべるが、それが健康によい食生活かというとそうではないと福場さんはいう。米国を例に挙げるまでもなく、豊かになると食事の中のエネルギーに占める脂肪の割合が増える傾向がある。ところが今の日本は所得が増えたが、エネルギーに占める脂肪の割合が24%とちょうどいいのだそうだ。

「たまたまちょうどいい状態だということなのかねェ」と渡辺先生がいうと、「そうなんですよ」福場さん。それなのに食生活懇談会の提言では日本型食生活が優れているからだなどとなってしまった。これからもっと国民所得が増えてゆけば、脂質の量は増えてゆくことになる可能性が高い。 

つまり今はその通過点にいるだけだというのが福場さんの主張だが、これには根拠がある。米国では、エネルギーに占める脂肪の割合が1906年は33%だったのに対し、最近では48%になっているという。この間に米国は世界で最も豊かな国になったわけだ。

「問題はもう一つ、あります」

脂肪とは逆に、豊かになるとエネルギーに占めるデンプンの割合が下がる傾向にあるそうだ。ところが、この傾向は二つに分かれる。米を主食とする国と米以外を主食にする国では下がる割合が違うのだ。米を主食にする国の方が下がり方がなだらかなのだ。お米を食べている方が、豊かになっても脂肪が増えづらく、デンプン(炭水化物の一つ)を取る量が減りづらいという特徴があるという。

「面白いもんだねェ」と渡辺先生はしきりに感心する。

つまりご飯を食べている民族の方が、高脂肪になりづらいというわけだということになる。これはペリッシエいう学者の調査で分かっているそうだ。

ただいくらご飯を食べていても、これ以上所得が上がって来ると日本人も高脂肪食になる可能性はある。それで学者らしく福場さんは「PFCのバランスが大事です」という。Pとはプロテイン(Protein:タンパク質)、Fはファット(Fat:脂肪)、Cはカーボハイドレート(Crabohydrates:炭水化物)のことだ。国民食事摂取基準では30歳以上でエネルギーに占める割合は、タンパク質9~20%、脂質20~25%、炭水化物が50~70%だった。

「木村君、大事な話だから心して聞いておくんだよ」と渡辺先生。いくらサプリメントを摂ってもバランスの崩れた悪い食事をしていては健康になれない。

「健康になる魔法の杖はないんだよ」

(ヘルスライフビジネス2019年4月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第122回は12月31日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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