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本丸は厚生省かも知れない(138)
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「実は調査発表の中に、そのヒントがある」
葛西博士がまず示したのは商品の調査の仕方である。これは2つの方法で行われたようだという。「簡易調査」と「詳細調査」である。簡易調査とは何かというと、経企庁名で業者に協力を依頼して、商品やチラシ・リーフレットの類の提供を受けて、それを調べた調査のことをいうらしい。
それまでの調査はたいがい厚生省や国民生活センターのもので、商品の試買調査や健康被害情報などの調査が多かった。流通の調査は珍しい。知りうる限りでは経企庁が健康食品を調査することはおそらく初めてに違いない。
経企庁の正式名は経済企画庁だが、これは戦後すぐに内閣府の外局として誕生した中央官庁の一つだ。主に経済政策や経済動向の調査・分析を行ってきたので、経済官庁という認識が一般的だった。小さな産業に過ぎない健康食品など、それまでは見向きもしなかった。
だから経企庁と健康食品は私たちの頭の中でどうしても結びつかない。経企庁が健康食品の流通を調査するといえば、規制と関係があるなどとは思う者もいないはずで、何の疑いもなしに協力したのだろう。
「そこが狙い目だったんだ」と葛西博士はいう。それは調査の結果を見れば明らかだ。用法用量や効能効果など薬事法違反がほとんどだ。これで喜ぶのは厚生省ばかりだ。喜ぶ奴が一番怪しい。
「だとすると経企庁が手を組んだということか」と編集長が言い出した。
しかしそれは従来ありえないことだった。役所同士は敵とまではいかなくとも、競争相手である。だから我々の常識からすると、経企庁と厚生省が手を組むはずがない。しかし今回の調査が薬事法違反の実態をあぶり出すためだとしたら、役人同士が手を組んだとしても不思議はない。
「おそらく厚生省が頭を下げたんでしょう。借りが出来ても目的のためにはしかたがないと」と葛西博士の妄想は膨らむ。それで経企庁が“よっしゃ”ということになったとみるのである。
「さらに詳細調査というのもやっている」
これは経企庁として業者にアプローチをしたものではなさそうだ。個人請求のかたちをとっている。つまり消費者と偽って、業者に資料請求しているのだ。
これは後に経企庁の担当者が「おとり捜査のようで、どうも…」と弁解したというが、まさにおとり捜査である。消費者が通常のチラシ以上の情報を欲しがった場合、さらに効果を書いた資料を消費者に提供するかもしれないなどということは、よほど業者のことを知らなければできないことだ。
「素人の経企庁の役人が思いつくわけはない」とさすが葛西博士は鋭い。確かにそうだ。
「しかもそれが見事に当たって、違反の資料が次々と見つかったのだから笑いが止まらない」と編集長はいう。
これで消費者に悪質な商売と印象付けることが出来る。こんな風に、我々は調査の結果から分析した。
とは言っても、これらのことはまだ想像に過ぎない。とにかく役所の尻尾をつかまないことには埒が明かない。本丸は厚生省薬務局に違いない。おそらく、目的は健康食品の流通の取り締まり。これが私たち編集部の導き出した結論だった。
「今一度情報を洗い直す」
編集長の号令一過、葛西博士は厚生省、私は経企庁、編集長と岩澤君は政治家と業界団体へと、寒空を突いて取材へ飛び出した。
(ヘルスライフビジネス2019年12月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)