【連載】10兆円産業化を目指すDgSの今昔物語⑥
VCグループAJD躍進の基礎を築いた石橋幸路氏(後編)
「もうVCの役目は終わった」とする声が聞かれるなか、医薬品小売業最大のVC(ボランタリー・チェーン)グループ、AJD(オール・ジャパン・ドラッグ)は、そんな声をしり目に今もなお生き続いている。その秘訣は会員同士の絆の深さと、共同で仕入れた商品を、会員企業自らの責任で販売する、他のVCグループがなし遂げられなかった共同販売機構の実践だ。返品は製造、流通、販売のどこにもメリットはない。そんな時代を乗り越えてきたAJDは、ひとえに石橋幸路氏の手腕に負うところが大である。
37年前の薬局の未来見込みが今、実現している「石橋理論」は、常に実践的だった。1984年、東京・日本橋三越の真向かいにあった東洋ビルのAJD事務所でお会いした際の話の内容が、今まさに現実になっていることに驚かされる。「石橋さん、競争が日に日に厳しくなっていますが、薬局が繁盛する方法と将来像はどうなりますか?」お聞きした。
すると、「山本君、私自身が知りたいくらいだよ」と言いながらも、石橋氏は、薬局の未来像についてジャンルを、専門型薬局、一般型薬局、ドラッグストア型薬局、スーパードラッグストアの4つに分け、それぞれ次のように薬局の未来見込み(①垂直的に上昇する、②右肩上がりで上昇する、③ダウンしていく、④驚異的に垂直上昇する)について示唆していただいた。
<専門型薬局>■専門薬局・・・右肩上がりで上昇する■調剤をもつ薬局・・・垂直的に上昇する■調剤センター・メディカルセンター・・・右肩上がりで上昇する
<一般型薬局>■一般薬局(コンビニエンス型が多い)・・・ダウンしていく■コンビニエンスドラッグ・・・右肩上がりで上昇する■専門性をもった薬局・・・右肩上がりで上昇する■ディスカウント薬局・・・ダウンしていく
<ドラッグストア型薬局>■ドラッグストア・・・垂直的に上昇する■健康をメインとした品揃えの中型店・・・垂直的に上昇する■ディスカウントドラッグストア・・・垂直的に上昇する
<スーパードラッグストア>・・・驚異的に垂直上昇する
石橋氏が、さらにすごいことは、ビタミン剤やパップ剤など、薬局以外でも販売できるようになること、宅配を利用した販売も登場してくることを挙げる一方、処方箋調剤ビジネスについては、次のように指摘されていた。
「開業医の35~40%が処方箋を発行した場合、患者が薬局を選ぶ時代になる。これからは、自分に便利な薬局で処方箋受け取ることになる傾向を見逃してはならない」
新米記者として1970年にAJD旗揚げに遭遇した石橋幸路という人物との出会いは、記者生活50年を超えた今も忘れられない。
「今までの小売薬業界のグループといえばほとんどが友人や知人を頼っていた運命共同体的なものだった。それではもういけない。これからはマーケットシェアの“点”と“線”を確保する組織が必要だ。“昨日の敵でも、今日は友”なのだ」
AJDを創設した直後の石橋さんは、こう語っていた。
小売主宰によるVCグループのほとんどが共同仕入機構だったのに対して、AJDは創設当初から強い絆で結ばれた共同販売機構として飛躍を遂げていった。大正14年12月25日、大阪に生まれた石橋さんは残念ながら亡くなられたが、実践に基づく語録はAJD幹部や次世代経営者たちに受け継がれていることと思う。