【連載】 クローズアップ在宅医療・介護① 宮澤裕一さん
第1回 ゲスト:ウイズネット(現ALSOK介護) 代表取締役社長 宮澤裕一さん
「どんな介護が望まれているのか?」
追いかけて辿り着いたワンストップサービス
今号からの新連載「クローズアップ在宅医療・介護」。本企画は、4月号にインタビュー記事を掲載した日本ヘルスケア協会・理事の小原道子さん(ウエルシアホールディングス・地域連携推進担当)が聞き手となり、在宅医療および介護のキーパーソンをゲストに迎え、それぞれの思いを語ってもらうコーナーだ。記念すべき第1回目は“ワンストップサービス”を掲げ、グループホームやサ高住、デイサービス、訪問介護など手広くかつ手厚く実施するウイズネット(ALSOK⦅綜合警備保障⦆グループ、本社・埼玉県さいたま市)の代表取締役社長・宮澤裕一さんをゲストに、経営から介護の現場まで話題に尽きない対談となった。(記事・写真=佐藤健太、「月刊H&Bリテイル」2020年6月号掲載:社名や肩書きは当時)
ワンストップサービスを展開するウイズネットの強み
小原さん ウエルシア薬局はウイズネットさんと長くお付き合いしており、在宅医療の現場でスタッフさんから多くの学びをいただいてきました。これまで宮澤社長はどのようなフィロソフィーを持ってウイズネットを経営してきましたか。
宮澤さん ウイズネットの創立は、介護保険法が施行される2年前の平成10年です。もともとはグループホームが強かった会社で、宅老所的なところからスタートしました。創業以来「必要な人に、必要なサービスの提供を」という理念の下で、地域に深く根差したドミナント展開によって在宅から施設まで複合的な「ワンストップサービス」をめざしてきました。
小原さん 私も20年以上前から在宅訪問薬剤師として現場に出ていますが、頑張れば頑張るほど「どう進めていけばいいのか?」と頭を悩ませてしまうことがあります。 体調や環境の変化とともに、様々な選択肢がありますが、その中からベストを選ぶのは難しいように思います。
そういう意味では先駆的にワンストップサービスのモデルを確立していったウイズネットさんの方向性は本当に素晴らしいと思います。介護業界においてワンストップ性はどのようなメリットを持っているのでしょうか。
宮澤さん 私には認知症を持つ93歳の母親がおり、介護サービスが付帯されていない有料老人ホームでお世話になっています。ですから、介護が必要になると外部のサービスを活用しながら対応している状況にあります。「今後どのような場所でお世話になればいいのか」を考えると、その先にあるのはグループホームが浮かんできます。
グループホームも20年前は認知症の方がそこまで多くなかった時代ですので、なかなか正しく対応されていなかった背景もありますが、そういった方たちの共同生活の場として一緒に買い物に行き、調理のお手伝いをする、まさに共同生活の場でした。ですが、そうしたグループホームは看取りまで対応しておらず「共同生活ができなくなったら、次の施設にお世話になる」というケースが大半となっています。
当社も、設立された20年前は共同生活の場だったのですが、そこから「看取りまでお供する」という選択肢に進んだ企業です。創業から20年以上が経過し、ご利用者さまの平均年齢が上がり、一緒にお料理を作るどころではないという構成になってきた施設もあるからです。
私の母に置き換えて「どちらが幸せなのだろうか」と考えると、次に入居するグループホームで看取りまで対応してもらえた方が幸せだと思いますし、当社20年の歴史の中で、実際にそのようなニーズを持つご本人・ご家族もおり、そのニーズに応えているうちに当社は自然とワンストップサービスというところに行きついたのかもしれませんね。
利用者が「どんな思いを持っているのか」を第一に
小原さん ウイズネットさんは宮澤社長の貴重なご経験も踏まえたうえで、企業としての働き方という考え方ではなく常に、お客さまのニーズありき、ご本人・ご家族と共に歩んできた会社だと思えます。
宮澤さん 「ご利用者さまがどんな思いを持っているのか」ということを第一に考え、進化した結果だと思います。親会社のALSOK(警備会社)も全く違う業種ですが、お客さまのニーズに応えているうちに進化していった会社だと思います。最初はガードマンから始まり、システムを使った警備やホームセキュリティに進化し、さらにそこで得た信頼から「人生の最後まで見守ってほしい」というお客さまが増え、介護まで事業領域が拡大していった。そういうことを考えるとウイズネットと進化の仕方が似ている企業だと思います。
小原さん ALSOKグループである強みを生かしていけば「施設に入らずに自宅で人生を終えたい」というニーズがあったときに、自宅警備や見守り、介護など多角的にご提案することができますね。
宮澤さん かつてホームセキュリティは“お金持ちの一戸建て”というイメージがありました。ですが徐々に裾野が広がって防犯だけではなく“見守り”というニーズが強くなっています。
たとえば高齢の両親を地元に置き、自身は東京で仕事をしている人のニーズなど。昔は「取られるものなんかない」と考える家庭にはセキュリティシステムは入りませんでしたが、「見守りとして自宅の鍵まで預けているALSOKに、介護が必要になったら面倒を見てもらいたい」というお客さまの声に背中を押されて、介護業界に進出したのがALSOKでもあります。
ただ、それを決心したときには、自社で1つずつ最初から作り上げていくにはあまりにも時間が足りませんでした。そうしたときにご縁があり、ウイズネットを含めて数社(HCM、ALSOKあんしんケアサポート、あんていけあ)がALSOKグループに仲間入りしました。在宅介護が得意な会社、私たちのように施設が強い会社もあり、それを足すとバランス良くニーズに応えられる形になります。
(取材後の5月12日、ALSOKがウイズネット、HCM、ALSOKあんしんケアサポートの介護事業部門、あんていけあを、10月1日に統合し、新会社「ALSOK介護」が発足すると発表。ウイズネットが存続会社となるため、6月18日付でウイズネットは商号変更を行い、ALSOK介護株式会社となる)
「幅広い商品知識を介護現場に落とし込める」
その強みがドラッグストア薬剤師の可能性
課題はアクティブシニアへのサービス提供
小原さん ALSOKグループである強みを生かしていけば「施設に入らずに自宅で人生を終えたい」というニーズがあったときに、自宅警備や見守り、介護など多角的にご提案することができますね。
宮澤さん ALSOKグループの介護セグメントは、売上高400億円に近い規模となっており、首都圏であればある程度は対応できるといった状況にあります。しかし、ALSOKグループは大きな課題を持っています。それは“アクティブシニア”に対するサービスが不十分であることです。「まだ介護を必要としていない」という層に、健康維持・増進をテーマとしたシームレスなサービスをどのように提供していくか。このサービスおよびビジネスモデルを何とかして確立させたいと考えています。
小原さん ドラッグストアはまさにアクティブシニア層のご利用も頂いております。今言われている健康サポート薬局機能の中には、地域住民の主体的な健康の維持・増進に寄与していくという役割も必要です。ドラッグストアも専門職がいる場所として健康相談や地域活性化の提案をする時代を迎えつつあります。ALSOKグループが課題に挙げているアクティブシニアへの取り組みとは、非常に似通っている部分があると感じます。
近年、調剤併設型のドラッグストアは在宅医療のサポートにも積極的に参画し、介護施設の方々とコミュニケーションをとる機会が増えていると感じています。そのご縁を生かし、ALSOKグループのアクティブシニアサービス構想と、私たちの健康サポート薬局機能が連動すると、社会的にもより意義深いものになっていくと思います。
宮澤さん これまでALSOKはCM展開も含めた広報活動をアスリートとコラボレーションして行ってきたため、多くの方々は「元気で、はつらつとした」というイメージを持っています。私がALSOKあんしんケアサポートの社長だったころ、旭化成さんから「東京都町田市につくるサ高住の1階でデイサービスを運営しませんか?」とリクエストがあり、デイサービスと居宅支援、訪問介護、施設コンシェルジュを担当することになりました。
その際、旭化成の社員さんから「“独特の売り”があったほうがいいのでは。ALSOKさんなら、CM放映していた“ALSOK体操”を高齢者向けにアレンジしたらどうですか?」とヒントをいただきました。振り付けは機能訓練士がつくり、曲調をスローテンポに、宣伝的な部分を取り除きつつ「火の用心」「振込詐欺に気を付けよう」など生活標語を交えた歌詞など…。「ALSOKあんしん体操」を手作りでつくりました(笑)。
それをYou Tubeで発表すると意外にも人気が出て、カラオケ(Joy Sound)の「健康王国」というコンテンツの体操部門でラジオ体操に次ぐ2番目のヒットとなったことがありました。そこでアクティブシニアからのヘルスケアニーズの手ごたえを感じました。
外国人スタッフの活躍で施設黒字化へ
小原さん とても良い取り組みだと思います。ぜひ介護業界だけではなく、医療業界や福祉業界、ドラッグストア業界にも広げていただきたいです。
ところで、介護業界はかつてにはない人手不足となっています。外国人の雇用などを含めてご意見をお聞かせください。
宮澤さん 外国人の雇用については、ある程度の比率までは全く問題はないと考えています。当社は約3,000人を雇用していますが、そのうち外国人は80人ほどです。当社の場合、日本人の配偶者がいるなど何らかの形での在留資格がある方を雇用しています。そうした意味ではコミュニケーションが成立する方ですので、実務にはほとんど問題はありません。
まだ介護業界は手書きの記録が多いので、それを電子化していくことで外国人にも取り扱いやすくなります。このあたりを整備していくことで業界としての魅力が増し、外国人だけではなく全体的に雇用者数は増加していくでしょう。また、社内に同国籍の方々がネットワークを構築することがあり、そうするとその知人が入社するなどで良い人財を呼び込んでくれることもあります。
小原さん 外国人を雇用した成功例など、現場でどのような影響が出ているでしょうか。
宮澤さん ALSOKグループでは品質向上発表会を毎年開催しており、そこで優勝した施設があります。その施設は比較的古いうえに、「入居率があまり伸びない」「派遣社員が多い」などで、赤字に苦しんでいた状況でしたが、施設長が中心となり「両方を克服する!」と立ち上がってくれました。
もちろん、介護の品質を向上させたことも業績改善の要素でもあったのですが、ある外国人の方が偶然入社したことも大きかった。とても仕事熱心で、人柄の良さから同じ国籍を持つ仲間内の“顔役”にもなっている方でした。
その方が優秀な仲間を呼び込んでくれ、結果的に派遣社員がゼロになり、新たな外国人の人財が高品質な介護を現場で提供していくことで売り上げを伸ばして黒字化。さらに前述のように品質向上発表会で優勝するというサクセスストーリーを打ち立てました。その後、その施設には記録の電子化も早い段階で行い、外国人の定着率も高まりました。
小原さん 素晴らしい成功例ですね。専門職あるいは国や文化の違いを超えた「人と人とのつながり」が企業内でも浸透していますね。宮澤社長は“人財が生きる現場”をどのように捉えていますか。
宮澤さん 外国人との接し方のポイントは「そもそものベースにある考え方が違う」ということ、そして「どこでつまずいているのか日本人に理解できない点がある」ということを理解し、きちんとヒアリングし、会社として現場としてキメ細かく対応していくことでしょう。当社の場合は、その結果、先ほどの好循環が生まれたように思います。人財確保が難しい中、日本人のスタッフは「自分たちの仕事が奪われる」と考えずに、お互いを大切にし合うことが大切になります。
薬剤師が深くかかわることが介護現場の質を高める
小原さん 薬剤師を含めた他の専門職との連携を取っていくと、介護現場に携わる人たちの知識や負担軽減にもつながると思いますが、多職種連携についてどのように意識していますか。
宮澤さん 介護職員が医薬品の作用を分かっていると現場は非常にスムーズです。その一方で当社のように多くの施設を持つと、「お昼に出す薬を朝に出してしまった…」などの誤薬が起こってしまうリスクも高くなります。介護職員は「薬を間違うと大変なことが起こる」という基礎知識を持っているようで持っていない恐れがあり、これを理解してもらうために、当社ではウエルシア薬局さんの薬剤師に講師をお願いし、誤薬防止セミナーを開催しています。
また、現場にかなり入り込んで、訪問診療のドクターと一緒に施設を回り、その方針を十分理解したうえで調剤してくれる薬剤師もおり、そうした方は介護職員ともよくコミュニケーションを取ってくれます。場合によっては、よりご利用者さまが飲みやすい剤形や服用方法を教えてくれるため、現場はとても助かっています。
小原さん そこが薬剤師の強みなのですが、調剤して医薬品を手元に届けることに意義を感じている薬剤師がまだまだ多くいます。本当は患者さんが正しく服用し、医薬品の効果がきちんと体にあらわれていて、副作用も含めてきちんと見極めていくのが本来の仕事です。さらに薬剤師だけでは情報不足になってしまうので、多職種連携を図って確認していくことが重要になります。
宮澤さん ドクターや製薬企業がイメージして完成した医薬品は健常者が普通に飲むことを前提として考えられています。しかし介護施設には、普通の飲み方が困難な高齢者がたくさんおり、とろみなどを用いて飲んでもらった場合、きちんと消化・吸収され、期待した効果が得られるのかどうか、一抹の不安が残ります。薬剤師には、普通の飲み方ができない方に対して、きちんと効果が出るフォローをしていただくことを期待しています。
介護現場における服薬の不安、薬剤師が解消できるか?
小原さん 私も在宅医療に携わる薬剤師として、一人の患者さんを深く察することができる存在を目指しています。先般、私は岐阜薬科大学で学位(薬学)を取得したのですが、論文の内容は、今、宮澤社長がおっしゃった話題に近いものでした。
「水」「お茶」「牛乳」「オレンジジュース」「味噌汁」にとろみをつけ、試験管に。それぞれに医薬品を入れ、pH1.2とpH6.8で溶けるかどうか実験しました。特に、水は軟水と硬水に分けて実験したのですが、特に硬水の場合はpH6.8に医薬品を入れると全く溶けないという結果が出ました。
こうした情報を論文として発表しているのですが、なかなか医療・介護の現場まで落ちていきませんので、薬剤師は「患者さんに寄り添う」と言う前に、必要な情報を現場に提供できるようにコミュニケーションを取ることが必要だと思っています。
宮澤さん 介護職員はドクターから指導されることが多いので、薬剤師が現場で良い助言をくださると、介護職員も良い意見を出せるかもしれませんね。
小原さん 介護職員も薬剤師も自分たちの役割は別々だと思っている人は多く、これまで上手く連携できていなかった原因はそこにあると感じます。「利用者さんやご家族に寄り添っていく。少しでも生活の質を上げるためにサポートする」という視点からするとゴールは同じです。この記事をお読みになる方にも、ぜひそれを知っていただきたく思います。
介護現場で喜ばれるシニアセラピーとメイクアップ
小原さん ウイズネットさんはオリジナルのサービスで「シニアセラピー」を実施していますね。
宮澤さん シニアセラピーは主に高齢の女性にご利用いただいているサービスです。内容はお一人さま15~20分ほどのリンパマッサージで、足裏療法と顔面療法を実施します。ご利用者さまの目線になって、お顔を見ながらじっくりとコミュニケーションを取ることができます。あまり心を開いてくれなかったご利用者さまもシニアセラピーを介することで心を開いてくれることがあります。その情報を担当する介護職員と共有することでご利用者さまへの接し方が変わるなど、理解の促進にもつながっています。通常の介護現場からは生まれないコミュニケーションにより、ご利用者さまだけではなく、当社スタッフにも良い影響を与えてくれるサービスだと思っています。
小原さん 私も終末期の患者さんが入居する介護施設で、ウエルシア薬局のビューティアドバイザーを連れて患者さんにメイクをしてあげるというイベントを行ったことがありました。その患者さんは10年以上前に気管切開しており、当然それ以降メイクをしたことはなく、コミュニケーションもまばたきくらいしかできないほど重症でした。メイクをしていると目から涙があふれ、ご家族も「昔のお母さんに戻った」と大泣きしながら記念写真を撮影しました。シニアセラピーもまさにそういうことなんだと思いました。
宮澤さん「薬剤師から情報を引き出した方が得」
小原さん 近年、地域医療に参画する薬剤師が格段に増えてきています。どのような印象を持たれていますか。
宮澤さん 専門的な部分までフォローしてくださる方もいれば、それほどでもない方、人それぞれだと思っています。かつては、私個人として「薬局で待たされて、余分にお金を払って、ドクターと同じような質問をされるのは煩わしい」と思っていましたが、今では「薬剤師さんから情報を引き出した方が得だな」と思うようになりました。介護現場でも同じで、他人から情報を引き出すことに長けている介護職員は、薬剤師から良い情報・良い提案をどんどん得られますが、そうではない介護職員では難しい気がします。
小原さん そこは薬剤師も指摘をされるところで、先日も他の専門職の方に「ドクターも看護師さん、訪問リハさん、ヘルパーさんも患者さんに寄り添っているイメージがあるけれど、薬剤師からは感じられません」と話されました。やはり、医薬品を介しているため「人と触れ合う職業ではない」と思う方もいるのです。
宮澤さん 本来、薬剤師は「対面が原則」という制約を持っていますので、介護施設でも対面であってもいいと思います。ただ、なかなかそこまでやり切れていないという現状ですが、小原さんのように、その原点に立ち返って仕事をされている方もいます。
小原さん ドラッグストアの薬剤師が強いのは、店舗で取り扱っている商品カテゴリーが多岐にわたっているので、医薬品以外の知識にも長けているという点です。ドクターに頼らなくとも自立してできることを提案し、セルフケアの範疇で皆さんにお役に立てるという武器があります。ですから病気とは医療保険を使って上手に付き合い、アクティブシニア層も含めた病気の予備軍に向けてドラッグストアの薬剤師ができることは多々ありますし、これからの薬剤師の可能性として有望な部分だと感じます。
宮澤さん 私も母親に食べてほしい商品を小原さんに相談すると「たんぱく質を摂取するにはこの商品がいいですよ」とアドバイスをしてもらったことがありました。こうしたことはドクターから引き出すことはできない情報です。介護関係の食品は高価なものが多いですが、きちんと信頼している薬剤師から勧められると継続して購入します。現に、小原さんから勧めてもらった商品は、今でもウエルシア薬局さんで定期的に購入している私がいます(笑)。
小原さん 本日はさまざまなお話をありがとうございました。まだまだ話は尽きないですが、ぜひ今後もよろしくお願いいたします。