【インタビュー】日本インバウンド連合会 中村好明氏(前)

2022年8月23日

「メイドインジャパン神話」は消滅へ

今年6月に訪日外国人観光客の受け入れ人数が1日当たり2万人に緩和され、昨今の円安も相まってインバウンド市場の復活を期待する声が健食業界でも高まっている。インバウンド市場復活への展望やコロナ以前との変化などを一般社団法人日本インバウンド連合会の中村好明理事長に聞いた。

―訪日外国人客の現状や今後の見通しは。

中村 世界的には新型コロナの第7波はピークアウトに向かっており、国内でも東京都の新規感染者数はすでに減少傾向となっています。

一方、日本や中国をはじめとした東アジア地域は世界でも特に厳格なコロナ対策を続けており、これがマイナス要素となって訪日外国人客の回復が伸び悩んでいます。

こうした状況は当面変わらないと見られますが、来年1月に中国の春節を迎えるころにはインバウンド需要の復活もある程度見込めるのではないでしょうか。

というのも、今秋には5年に1度開かれる中国共産党大会が控えており、これを過ぎると中国のゼロコロナ政策もガラッと変わる可能性があるからです。これに第7波の収束が重なると、香港、台湾、韓国を含めた東アジアの状況も変わってくると思われます。

―コロナ前のインバウンド市場と異なる点は。

中村 コロナ前と比べると、やはり圧倒的な円安が追い風となり、インバウンド市場の中核を担う中国、台湾、香港は特に大きく消費を伸ばすと予想され、すでに越境ECではそうした傾向が見られています。インバウンド市場が回復すれば、越境ECの市場も相乗的にさらなる拡大が見込めるでしょう。

一方、コロナ前のような「メイドインジャパン神話」はすでに消滅したと考えるべきです。
中国では、コロナ前から自国産のサプリメント、医薬品、化粧品などあらゆる製品の品質や性能が飛躍的に向上し始めていましたが、コロナによって海外に出掛けられない中、品質の高い自国産の製品に対する信頼度が大幅に上昇しました。

日本産製品の中国現地での内外価格差も大幅に縮小したため、わざわざ日本で爆買いして中国内で転売するメリットも小さくなったのです。

今後、かつて「日本製」という付加価値だけに頼って販売していた製品は非常に厳しくなることが予想されます。成功するためには、中国市場に軸足を置いたマーケティングやプロモーションが不可欠となるでしょう。

―プロモーション戦略にはどのような変化が求められますか。

中村 今後、インバウンド消費の中心は、25~34才の「ミレニアル世代」が担っていくと考えられます。日本は中高年が中心の社会ですが、中国をはじめ東アジア・ASEAN諸国ではITの時代についていけない中高年に代わって若年層にイニシアチブが移りつつあります。

ミレニアル世代はコロナ禍も相まって健康意識が高く、健康や美容面での、いわゆるお肌の曲がり角を迎える前にケアしたいというニーズが非常に強いです。現に、中国のeコマースでは若年層による高価格帯の化粧品やサプリメントの購入が顕著になっています。

彼らはコミュニケーションから情報収集、買い物や旅行の予約まですべてSNSで完結させてしまう世代です。販売する側にも当然それを前提としたプロモーション戦略への転換が求められています。

―消費者の嗜好に変化はありますか。

中村 コロナ以前は、形ある商品を中心とした「モノ消費」から、体験型の「コト消費」にシフトしつつありましたが、今後は「コト」と「モノ」が密接に結びついた「コト×モノ消費」が主流になるのではないでしょうか。

例えば、エステサロンや美容クリニックなどでプロによる施術を受け、そこでしか購入できないプロユースの化粧品やサプリメントを買っていく。

このように、「体験」が「購入」の導線となるような消費スタイルです。

円安を背景に客単価は上昇しており、富裕層による購買力はさらに強くなりますが、一方で「嗜好のパーソナル化」が一層顕著になり、「日本に来ないと買えないもの」「私の嗜好に合うもの」「ネットでは体験できず、日本の現地でしか味わえないもの」がインバウンド消費の主流となるのではないでしょうか。

なお、こうした消費行動の変化は「パレートの法則」(80:20の法則)に則って考える必要があります。つまり、こうした嗜好の変化はインバウンド需要全体でみれば2割に過ぎないのですが、その2割が残り8割の消費に影響を与え、ひいてはすべてのトレンドを規定していくということです。

◎中村好明氏 プロフィール

1963 年、佐賀県生まれ。上智大学出身。ドン・キホーテ(現:PPIHグループ)社長室ゼネラルマネージャー、㈱ジャパン インバウンド ソリューションズの代表取締役などを歴任(2020年3月退任)。
2017年4月一般社団法人日本インバウンド連合会(JiF)理事長就任。2020年4月株式会社ぐぼう代表取締役就任。
日本全体のインバウンド振興、まちづくり支援、民間企業の経営コンサルティング業務に取り組む。ハリウッド大学院大学客員教授。全国免税店協会副会長。京都府観光戦略会議委員。熊本市MICEアンバサダー、その他公職多数。

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