奥さんのがんがきっかけで栄養療法に着目(20)
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ホテルの部屋でこの高級酒をご馳走になりながら、渡辺先生の話は始まった。話の大半ががんと栄養の問題だった。
先生はすでに2年前にG.E.グリフィン著の「癌なき世界:ビタミンB17物語」(ノーベル書房)を共訳していた。ビタミンB17とは今は言わなくなった。
このアミグダリンとかレトリールという名称はもしかすると耳にした人もいるかも知れない。植物の種にはシアン化合物が含まれている。特にアーモンドなどの種に多く含まれているようだ。身近なところでは梅干しの種の中の仁に含まれているのは割合知られている。
このシアン化合物は欧米でがん治療に使う医者がいる。理由はアーモンドなどに含まれるシアン化合物は配糖体になっているので、酵素で分解されないと毒性を発揮しない。一般的には人の腸で分解されて、中毒を起こすとされている。
しかし人の体内にある酵素ではこの配糖体を切ることができないらしい。都合よくがん細胞の持っている酵素だけがこの配糖体を分解する。つまりがん細胞の周りだけでアミグダリンは毒性を発揮するといわれる。これが今でいう代替医療の治療に使われている理由だった。
これを大量に取っている地域がパキスタンの北西の地域にある。フンザである。ここは1974年までフンザ王国として存在していた。この王国は世界の長寿地域として知られる。
この長寿の原因の1つが杏子の種を大量に食べていることだといわれる。杏子の種はアーモンドだ。フンザの人は欧米人の摂取量の200倍と取っているといわれる。しかしこんな量を取っても中毒もなく、逆に健康で長寿の原因の1つに数えられている。もちろんがんもほとんどない。
たぶんこういったことをもっとアカデミックに先生は2時間余り話してくれたのだろう。しかしたまに出てくる英語もあって中身がますます理解不能になった。分からない話を長時間聞いているほどの苦痛はない。それでついお酒をいっぱい飲むことになる。旅の疲れもあって、眠気も襲ってくる。何か質問でもしないと、寝入ってしまいそうだ。
「先生はなぜがんと栄養のことを勉強するようになったのですか」と口を突いて出た。すると「妻をがんで亡くしたんだ」と思いもしない言葉が返ってきた。
この時、渡辺先生は64歳だった。50代半ばで奥さんをがんで亡くし、会社を辞めた。三菱レーヨンの常務取締役だったらしい。出世をかなぐり捨てて、辞めた理由ががんと闘うためだった。
「どうも世界の医学の大勢では予防しかないようだ」
予防というと食事や栄養をどうするかということになる。ビタミン・ミネラルや栄養療法に辿り着いたという訳だ。
先生の言葉通り、この年米国でドール博士とピート博士の歴史的研究が明らかにされた。「がんを避け得る要因」という論文だが、ここでがん発生の要因として食事が35%、煙草が30%と指摘された。これは世界の医学界に衝撃を与えた。
(ヘルスライフビジネス2015年2月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)