【インタビュー】ビタミンD不足の原因と健康被害/越智小枝教授

2023年8月9日

ビタミンDの充足は健康へのスタートライン

東京慈恵会医科大学は6月、島津製作所と共に都内で健診を受けた5518人を対象に調査を行い、98%の人がビタミンD不足に該当していることが明らかになった。ビタミンDは不足すると骨粗しょう症や免疫力の低下など健康問題に繋がる重要な栄養素だが、現代の食生活では十分な量を摂取できていないというのが現状だ。今回は、多くの人が陥るビタミンD不足の原因と健康被害、解決に向けて必要な取組を東京慈恵会医科大学教授の越智小枝氏に聞いた。

―血中ビタミンD濃度に関する大規模な調査を行われた経緯は。

越智 慈恵医大では、もともとビタミンに関する研究が盛かんに行われており、私も膠原病やリウマチの治療に携わる中で骨の健康に関与するビタミンDには以前から関心がありました。

そうした中、血液中のビタミンDを高速かつ正確に測定する技術を開発した島津製作所さんから共同研究のお話をいただき、健康な人を対象とした大規模検査を実施することになりました。

初めて試験結果を見た際には、測定方法に問題があるのではないかと思うほど衝撃的だったのですが、試しに他の方法で分析してみても結果は同じでした。

今度はビタミンDの基準値があまりに厳しすぎるのではないかと思い、さまざまな文献を確認したのですが、やはり現在の基準値を下回ると骨粗しょう症や骨折のリスクが高まることは否定できませんでした。海外の文献では、ビタミンDが不足すると心疾患のリスクが高まること、さらには死亡率が上昇するとの報告もあり、かえってビタミンD不足による健康リスクを再認識する結果になりました。

 

―これほど多くの人がビタミンD不足に陥っている原因は何でしょうか。

越智 ビタミンDには、食べ物から摂取されるものと日光を浴びることで皮膚から生成されるものの2種類があります。

原始時代以前、ヒトが服を着ていなかった時代は、日光を浴びることで十分なビタミンDを得ることができたため、食品から摂取する必要が無かったと考えられます。

 一方、ヒトが服を着るようになり、さらに室内での生活が中心になると、日光を浴びる量が急激に少なくなりました。

 加えて、近年は紫外線を浴びることによる皮膚がんのリスクなども叫ばれるようになったため、余計に日光を避ける人が増えたと考えられます。

 また、ビタミンDを多く含む食品としてサケ、シラスなどの魚類やキノコ類などが挙げられますが、現代の食生活においてこれらの食材を毎日食べている人は少ないように思います。こうした理由から、ビタミンDは他のビタミンと異なり、バランスの良い食事だけでは十分な量を摂取することが難しいのです。

 そのため、食生活の改善や日光浴だけでなく、サプリメントで効率良くビタミンDを摂取することも有効なのではないでしょうか。

―ビタミンD不足によって想定される健康被害は。

越智 ビタミンD不足によって最も懸念されるのは骨粗しょう症なのですが、免疫力の低下や抑うつ、心疾患などさまざまなリスクが高まります。

 しかし、いずれも長い時間をかけて発症に至るため、ビタミンD不足による弊害を実感しにくいのも事実です。

 そのため、過剰摂取による健康被害に目が向きがちですが、摂取目安量の範囲であればほぼ心配する必要はありません。

 むしろ、国が掲げる健康寿命の延伸に不可欠な栄養素であると言えます。

 ただし、ビタミンDが全ての健康問題を解決するわけではなく、あくまでも身体機能のベースを維持するために働く栄養素です。そうした意味では、ビタミンDを充足させることは健康づくりのスタートラインであると消費者の方に認識してもらえるよう、健康産業界の方々には情報発信をお願いしたいです。

―今後の研究の展望を。

越智 一つは、血中ビタミンD濃度に地域差があるのかどうか、またどのような人が充足しているのか、といった疫学調査を予定しており、既に別の機関から1万検体ほど血清を集めています。

 もう一つは、ビタミンD不足による健康リスクは時間をかけて生じるとお話ししましたが、それらが発症する前にリスクを察知できるような血液成分を探索する研究も始めようとしています。

 また、血中のビタミンD濃度を充足させるためには、どれほどの量をどれくらいの期間摂取する必要があるのか、ということも研究が必要です。

 将来的には、健康診断などで自身の血中ビタミンD濃度を容易に知ることができるようなシステムが構築されることが望ましいと思います。

―ありがとうございました。


越智小枝氏 略歴

東京慈恵会医科大学 臨床検査医学講座 講座担当教授

1999年東京医科歯科大学医学部医学科卒業

2002年東京医科歯科大学 膠原病・リウマチ内科入局

2017年~東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座 講師

2022年~東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座 講座担当教授      

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