【規制】過信すべきでない暗示に関する地裁判決 (18)
※「ヘルスライフビジネス」2023年3月15日号掲載の記事です。 今回も薬機法の健康訴求広告に関する摘発は見当たらず、措置命令は学習塾の指導料金に関するものだけだった。行政処分の公表は3月末日に集中する傾向があり、その例に漏れないようだ。そこで今回は参考になると思われる本年2月16日産経、1月29日東京、2月3日産経各紙朝刊掲載健食広告の表現例を紹介する。2月16日産経掲載広告は平成29年11月のキノウ広告の処分例と、又他の2つは平成29年3月の最高裁判決と昨年9月20日の岡山地裁の消費者団体訴訟に関する判決に関係する表現例が含まれている。実務の参考になるように検討して私見を述べたい。
キノウ広告における使用前と後の比較写真使用の検討
使用間後の比較写真の○×に関する検討
リードで紹介した2月16日産経新聞に掲載のキノウ広告(届出番号F61)で、使われている
強調表示のうち、筆者が関心を持ったのは、次の2つである。
①「えっ!お腹の脂肪が減った」と断定した表現を付けたお腹まわりが太い写真と「~お腹の脂肪を減らす~」を付けた、上と比較してお腹まわり細い写真が、同一広告内で使われている。
②「お腹の脂肪が平均23.㎠減ると報告」「お腹周りの脂肪が減って感激!絶対続けます」などの効果を断定する表現が多く使われている。
関心を持ったのは、平成29年11月7日に公表された葛の花イソフラボンを関与成分とするキノウ広告が措置命令を受けた理由と重なると考えたからである。
処分された類似表現を今回、広告主が使った理由を規制基準に基づいて検討してみよう。
結論からいうと、今回の広告は、前回の処分理由を分析・検討した上で作成され、媒体の審査も広告主の主張を納得して掲載したものと筆者は推測している。
比較写真や強調表示が○と思われる理由
キノウ広告の規制は、届出表示からの逸脱や矛盾の有無で審査の○×が判断されるから、2つを比較してみよう。
≪H29.11.7に処分公表の届出表示の要旨≫
「~体重やお腹の脂肪やウエスト周囲径を減らすのを助ける機能があることが報告~」
≪R5.2.16掲載広告の届出表示の要旨≫
「~お腹まわりの脂肪、体重を減らし、高めのBMIを低下させる機能があることが報告~」
比較すると前者は単に「減らすのを助ける機能」であるが、後者は「減らし、低下させる機能がある」と断定している。
これが、前者のできない強調表示の後者が可能な根拠になると思われる。
問題は使えないはずの比較写真だが、今回の写真には両方に「BMI25-30未満のイメージ」という説明がついていて、効果を比較したものではない旨が主張されている。
筆者はこのような工夫は認められるべきだと考えている。痩身効果を認めて、比較写真を認めないのは、医薬品広告規制とのバランスから仕方ないとしても、健食であるキノウ広告として、この程度の差異は認められるべきではないか?
視力の症状に関する表現は使われていない
平成22年3月に「ボンヤリ・にごった感じ」「クリアでスッキリ」「目からウロコの実感力」などの一般健食広告の表現が処分され、平成29年3月の最高裁の判決で確定した結果の影響は、視力に関する一般健食の広告表への強い規制力を見せている。
本年1月28日東京新聞朝刊掲載の一般健食広告では「景色良好」「スッキリな毎日」「お折込チラシの文字は大きいはずなのに」という説明文にチラシが読みづらくて困っているイラストなどが使われているが、処分されたような表現は使われていない。
また、本年2月3日産経新聞掲載の一般健食広告での表現は「アサイベリーでイキイキを実感するチャンス」「新聞やテレビをもっと楽しもう」だけである。時刻表の細かい文字が読みづらくて困っているイラストも使われているが、それ以上の強調表現は使われていない。
これまで処分されたような表現は、すべてその後届出が受理されたキノウの広告でしか見られず、
規制の効果は確実に現れている。
令和4年9月20日岡山地裁判決の影響
その一方で、当紙令和4年210月15日号の当欄で紹介したように、岡山地裁は同年9月20日に「夜中に何度も—」「最近時間が—-」「外出が不安」「中高年男性のスッキリしなお悩みに」などの頻尿改善を疑わせる一般健食の広告表現について、頻尿改善の暗示には該当しない旨の判断を行った。
単純な比較はできないのだろうが、最高裁の確定判決と矛盾いしているようにみえる。
だが、令和4年10月21日の産経は次のような一般健食広告の表現を掲載している。
「夜ぐっすり!朝スッキリ」「ぐったり」「あくびが止まらない」「何度も起きる」「だるーい」「そのお悩み もしかして亜鉛不足かも」
これらの表現は、不眠改善の暗示表現と判断される余地は当然ある。
しかし、岡山地裁の判断のように考えれば、不眠症とは記載されていないので、効果の表現とまではいえないという判断もあり得ることになる。
産経新聞の媒体審査に影響したか否かはわからないが、筆者は岡山地裁の判断を根拠にした広告表現には懐疑的なので、今後の行政や媒体審査の動向に注目したい。