薬局は嚥下障害リスクを発見できる最前線

2021年6月1日

薬局は嚥下障害リスクを発見できる最前線

「薬を飲み込みにくくなった」「むせるようになった」

 嚥下機能の変化の気づき、医師との情報共有で早期の機能回復につながる

日本歯科大学 口腔リハビリステーション 多摩クリニック 菊谷武院長

薬をうまく飲み込めているかどうか、最近、むせることが増えていないか。 そんな患者の声や嚥下機能の変化に気づくことで、薬局は、患者の「食べる機能」 の低下をいち早く察知し、多職種につなげる立ち位置にいる。食べる機能は高 齢化とともに低下していくものだが、リスクを早めに察知し的確な訓練をすれ ば、そのスピードを抑えることが可能であり、摂食嚥下障害を抑えることもで きる。薬局からの医療機関等への情報の重要性、地域連携について、日本歯科 大学教授、口腔リハビリテーション多摩クリニック(東京都小金井市)の菊谷 武院長に伺った。

終末期の口腔ケアの重要性

日本歯科大学の教授でもある菊谷院長。講義を終えて取材に応じてくれたが、取材を終えるとすぐ、終末期の患者宅に向かった。

「がんの患者さんで、この 5 日間うとうとした状態が続いています。でも口の中は乾燥します。たとえ歯が抜けてほとんどないとしても、口腔ケアは必要です」

終末期の患者の口腔ケア。菊谷院長は、食の観点からもその重要性を指摘する。

「食が細って食べられなくなっても、栄養摂取が目的ではなく、最期まで食べたいものを食べさせてあげたい。例えば、ラーメンが食べたいという方には、豚骨スープを口に含んでいただく。口の中が乾燥するからといって、水は誤嚥を起こしてしまいますので、小さな氷片を含ませます。口の中で徐々に溶けていきますから、誤嚥の心配はありません」 菊谷院長が手にしたスマホには、医療者向けの多職種連携コミュニケーションツール「MCS」※で、現場の情報が入ってくる。終末期ともなれば、在宅薬剤師とも頻繁に情報共有している。

※MCS=MedicalCare STATION

「口を守る」地域包括ケア

終末期の患者で病院を退院して在宅に変わるとき、大事なのは病院と同じ質で医療サービスが提供できるかどうかだ。その逆もしかりで、「ホスピストライアングル」と呼ばれる。 菊谷院長の周辺では自ずと地域連携、病診連携、ホスピストライアングルが進んでいるが、9 年前にクリニックが東小金井に移転したころは、十分に連携がとれていなかったようだ。「地域の医療関係者や多職種と飲ミュニケーションを重ねて、ようやく進み始めたところ」と菊谷院長は成果を期待する。

同クリニックは、嚥下障害の専門クリニックとして、機能回復訓練、とろみの付け方、低栄養対策など、歯科医師、歯科衛生士、医師、言語聴覚士、管理栄養士、社会福祉士が患者と家族をサポートする。

「患者さんを診るにあたって、薬局薬剤師さんの情報も重要なんです。いつもの薬が飲み込みにくくなったり、むせることがあったり、副作用で嚥下障害が起きていることもあります。でも、患者さんからは、なかなか言い出しにくい。薬剤師さんから声をかけたり、気づいてあげたりして、嚥下機能に問題があったら医師にフィードバックしていただきたい。そうすれば、もっと情報共有が可能で、早期発見によって機能回復につながります」

「口を守る」地域包括ケアに、菊谷院長は多摩エリアから広げていきたい構えだ。

「食のサポートステーション はつらつ」

口腔リハビリテーション多摩クリニック内の介護食ショップ(ヘルシーネットワーク運営)。やわらか食、低栄養予防食品(高エネルギー・高たんぱく)、脱水予防の食品や口腔ケアアイテムが揃う。クリニックの医師や管理栄養士らともいっしょになって、利用者個々の状態にあった食品やアイテムをすすめている。患者だけでなく、一般客も来店するという。