【規制】なぜ届出表示が処分されるのか理解できない(27)
※「ヘルスライフビジネス」2023年8月1日号掲載の記事です。 6月30日に公表された措置命令は、時間の制約だけで言えば前号で解説できた。それをしなかったのは、次のような点が筆者には理解できなかったためである。①公表文書の処分対象になった「表示の概要」で指摘されている広告表現には、処分に値するものとしないものがある。②同じ公表文書の「別表1」の処分対象になった体験談には処分より指導が妥当と思われるものがある。③それと共に、届出表示自体が処分対象になっているとしか思えない箇所がある。しかし、なぜ理解できないのか説明することも実務の参考になるかと思い、今回あえて述べることにする。
6月30日公表の措置命令で筆者が理解できない点の検討
筆者には理解できない処分表現が含まれている
①「表示の概要」での処分表現の検討
「表示の概要」で処分対象として公表されているのは次の表現である。
「高めの血圧を下げる機能性サプリ」「血圧をグーンと下げる」「機能性表示食品きなり匠」「酸化LDLコレステロールを減少させる機能性取得~」「血圧を下げる機能性取得~」「中世脂肪を下げる機能性取得~」
これに対する届出表示は次のとおりである。
「~(関与成分には)中性脂肪を低下させる機能があることが(関与成分は)血圧が高めの方の血圧を下げる機能があることが(関与成分は)抗酸化作用を持ち、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の酸化を抑制させることが報告されています」
これを比較すると確かに「血圧をグーンと下げる」は処分に値するだろう。しかし「機能性表示食品きなり匠」や「中世脂肪を下げる機能性取得~」のどこが届出表示を逸脱しているのかわからない。届出表示の範囲内のものが処分されていると言わざるを得ない点が理解できない。
② 体験談の処分に理解できないものがある
キノウの体験談使用に関して、筆者の知る限り
行政上の明文の規制基準
は見当たらないが、業界の自主基準では、届出表示の範囲内の「個人の感想等」は使用できるとされている。
今回の処分の上で紹介した「表示の概要」には指摘されていないが「別表1」では、次のような体験談が規制対象とされているので、規制基準として参考になる。
「感動のお声も続々」「血圧への不安が減りました。日頃の食事や運動も気をつけていたのですが、注意を受けてしまって、どうしようかと思っていたときに、友人の紹介で『きなり匠』を飲み始めたのですが、今では不安もなく過ごせています」「これ一つで満足の対策ができています。~効率的で助かっています~」
「高血圧症や高脂血症が治った」であればもちろん「摂ったら中性脂肪が下がった、悪玉コレステロールが減少した、血圧が下がった」でも処分対象になるのはわかる。
しかし、今回処分されたレベルが、すべて処分対象になるとすれば、現状の全国紙の審査基準は大幅に変わるはずだ。この点が筆者には理解できない。
なぜ届出表示が処分対象になるのか
「別表1」では、G617の届出表示自体が処分対象になっているとしか理解できない箇所がある。
届出表示自体が処分対象になるのであれば、その範囲内の表現もすべて処分対象になるのは当然である。しかし、受理された届出が、突然、届出資料のエビウデンスに根拠がなかったとして処分されることが本当にあったとは、筆者には今でも信じられない。
仮に受付時に何らかの手違いがあり、受理してはならないものが受理されたのだとしても、それがわかった時点で届出が撤回されればよい。処分までは不要でないか。
ただ、消費者庁は7月7日付けで「重要なお知らせ」として「すべての機能性表示食品に関して、既に届出・公表されている科学的根拠の再検証を随時行う」旨を7月3日に業界に要請している。
これからすると、今回の処分は届出表示の根拠自体に疑問があり、そのための処分であったこと、また、これまでの受理したものにも同様のケースがあり得ると理解するしかないことになる。
今回の処分に関する広告実務上の留意点
筆者が当欄で述べようとしていることは、健食広告表現の○×の判断基準の解説につきる。行政上の判断基準は46通知をはじめとして多数あるが、それのみを解説しても、実務の参考として不足することは誰も否定できないはずだ。
その点、薬機法の摘発事例、特商法の処分事例と共に景表法の処分事例は、×の具体的な判断基準として重要であり、当欄でも参考になる事例を紹介・解説してきた。
今回の処分もそのような観点から紹介・解説したいところではあるが、これまで述べてきたように、筆者の立場では理解しがたい点が多く、通常のような解説ができず困惑している。
体験談だけをみても、
「今では不安もなく過ごせている」「これ一つで満足の対策ができている」「効率的で助かっている」といったレベルの表現が、使用感にならず、効果の体験として、
指導ではなく、本当に処分される×の基準になるのか、自信のある見解は述べられない。
今回の処分は届出表示自体が×になった筆者がこれまで想像もできなかった異常な事例である。すぐに、安易に実務の参考にできないと思われ、落ち着いて情報収集に努めるべきだろう。