【規制】薬機法より特商法の容疑が重視された(30)

2024年1月11日

※「ヘルスライフビジネス」2023年9月15日号掲載の記事です。8月31日に京都府警生活保安課と南署が「認知症予防になる」といった効能効果標ぼうによる電話勧誘での健康食品販売容疑で、福岡市の販売会社「乙女堂」の実質経営者ら5人を逮捕したと、京都新聞などが報じている。健食広告の医薬品的効能効果標ぼうに関する摘発は、筆者の知る限り、この1年間で5月31日の警視庁と6月6日の千葉県警の薬機法による2例しか報じられていない。しかし、今回の京都府警の摘発は、薬機法だけでなく特商法の容疑も対象になっており、前の2例とは異なっている。そこで、この事件について詳しく紹介し、留意点を検討したい。

電話勧誘販売での効能効果の標ぼうによる摘発

処分後に次々と社名を変え販売を続けていた

今回の京都府警の摘発事件の内容

 この事件は京都新聞の他に、ネット上のMBSニュースやABCニュースも報じているので、京都紙をベースにして整理・要約し、事件の内容を紹介する。

逮捕されたのは乙女堂の実質経営者の63歳の男性と、従業員4人の男女である。

5人は共謀して本年2月から6月の間に、栄養機能食品(エイキ)として製造された1個3980円の錠剤形状健食をリードで紹介したような方法で京都市の85歳の女性ら6人の女性に販売したというのが直接の逮捕容疑とされている。

 単価は廉価だが、MBSニュースによるとある顧客の購入金額は18万円であったという。これまでに約4億2千万円を売り上げていたとみられており、単価を廉価にしながらまとめ売りで高額にするなどして販売していたようだ。

 逮捕された乙女堂の実質経営者は同社の社長ではなかった。それは同社の製品の製造元である「一(はじめ)製薬」がこの実質経営者の会社であり、昨年9月に業務禁止命令を受けていたので乙女堂の社長にはなれなかったという事情が背景にあったためである。

実質経営者がこれまで受けた行政処分の内容

 消費者庁の公表資料をみると、実質経営者は特商法により次のように処分されている。

① 令和2年12月9日公表の、北海道経済産業局による福岡市の健康食品の電話勧誘販売業者「大名製薬所」への業務停止目命令3ヵ月と同社取締役への業務禁止命令3ヵ月。

② 令和4年9月30日公表の、北海道経済産業局による福岡市の健康食品の電話勧誘販売業者「一製薬」への業務停止目命令15ヵ月と同社取締役への業務禁止命令15ヵ月。

この2社の取締役は、いずれも「乙女堂」の実質経営者と同一人物である。MBSニュースは、この実質経営者が「少なくとも4回」社名を変えていると報じている。つまり、実質経営者は、業務禁止命令を受けて会社の経営ができないので、処分される度に社名を変え、実質経営者として禁止された販売を繰り返して今回の逮捕に至ったわけである。

なぜ薬機法でも摘発されたのか

今回の乙女堂の事件は特商法と共に薬機法でも摘発されているが、述べてきたように主な摘発理由は特商法の違反容疑であり、薬機法は添え物のように見える。そこで、特商法と薬機法の摘発理由を整理して特商法だけでなく、薬機法でも摘発された理由を検討してみよう。

 報道から摘発理由は次のように推測できる。

(1)電話による勧誘で認知症の予防などの医薬品的効能効果を標ぼうし、商品のまとめ売りなどによって高額で認知症の患者などに販売していた。

(2)購入した患者の家族が警察に相談したことにより、特商法違反容疑の明確な証拠があった。

(3)このような販売を禁止する行政処分を複数回受けていたのに、社名を変えるなどして、規制を逃れ違法な販売を続けていた。

 つまり、高齢者などを狙った典型的な電話勧誘販売の事件であり、その点では、特商法だけで十分に逮捕・起訴できる案件であった。それが薬機法でも逮捕されたのは、効能効果を標ぼうしているので、容疑者が悪質なことから、量刑を重くするための措置であったと思われる。

わかりにくくなっている薬機法の摘発理由

 もしも仮に、乙女堂の摘発が違法な電話勧誘販売によるものではなく、単に認知症などの効能効果を広告して販売しただけの事例であったのであれば、摘発はなかったかもしれないと筆者は推測している。

 その根拠になるのは、例えば、昨年6月1日に景表法の措置命令が公表され、本年7月26日に課徴金納付命令を受けた事例である。この処分の対象になったのはダイレクトメールなどでの「血管を強くし、高血圧、高血糖、糖尿病を改善する」といった広告表現であった。

 しかし、もちろん、それに反する事例もある。

リードで紹介した5月31日の警視庁の薬機法による一般健食広告の摘発は「認知症予防」の標ぼう、同じく6月6日の千葉県警の摘発は「インフルエンザに効く」という標ぼうが対象になっている。これらに基づけば乙女堂が単に広告・販売しただけでも摘発されたことになる。

 このような矛盾が生じる理由は、機能性表示制度の創設によって摘発基準がそれ以前よりも一律でなくなっているためだと思われる。摘発は広告表現だけでなく、その案件全体から判断され、マスコミの報道だけではわかりにくくなっている。


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