クロレラの培養には太陽と台湾の気候が必要だった(84)
バックナンバーはこちら
昼食の後、中歴のクロレラの培養工場に向かった。台北の郊外で住宅や畑の間にところどころ工場がある。町中から見るとのどかな場所だった。
ところで、台湾の夏の暑さは半端ではない。最も暑い時期には40度近い気温になるそうだ。ところがこの頃はまだ、街中を走るタクシーの大半にクーラーがなかった。窓は開いていて、風は入って来るが、まるで熱風だった。しかも泥の付いた服でもお構いなしに乗るからシートはよくザラザラした。上等なスーツなど着ようものなら、降りたときには、お尻の色が変わっていたなんという話をよく聞いた。
ところが、幸い台湾緑藻が差し向けてくれた車にはクーラーが効いていた。社長が乗る車だという。しばらくすると工場の門を潜った。門の前は工場の建物で、その右手に培養のためのプールが広がっている。
「まずはこちらに」と建物の中に案内された。応接間で待っていると、案内役の王さんが工場長を伴ってやってきた。説明によると、この中歴と桃園の2か所に培養工場があるそうで、現在両工場ともフル稼働のようだ。
「初めてですか」と王さんはいう。工場を見るのは初めてかというのだ。台湾自体が初めてなのだから、工場などは見たこともない。
「もちろん」というと、頷いて壁にかけてあった生産工程を指して説明を始めた。クロレラを作るには、まず種となる優良なクロレラの株を選び、室内の特殊なガラス容器の中で、ある程度培養する。それを野外の円形の培養プールに移し、太陽の光に当てて本格的に培養する作業に移る。この培養は光と温度が必要だ。十分に育ったクロレラをろ過し、脱水、加熱処理してパウダー化されるようだ。打錠して、ビン詰めされるのは日本でということになる。
一通りの説明が終わると、室内工場のラボのようなところに案内された。大きめの試験のビーカーが並んでいる。ガラスの管が差し込まれていて、その先端から泡がぷくぷくと出ている。中に入れてある水が緑に染まっている。
「これ、クロレラね」という。これを屋外の培養プールへ移して、さらに培養する。ところが、気温と光が栽培に適している夏には台風も来る。するとこのプールのクロレラを吸い取って避難させるそうだ。プールの壁は1mもないので、台風の雨でたちどころに溢れてしまう。放っておくと、どこかに流れて行ってしまうという。つまり雨風が収まるまでは、栽培が出来ない。
「台風が多い年は大変です」と工場長がいう。屋外に出ると、円形の培養プールが広がっている。10基はあるだろうか。プルーの中心から時計の針のように、攪拌の装置がかき混ぜている。酢のような匂いが鼻を衝く。「酢酸ですよ」と王さん。クロレラの餌だそうだ。
以降毎年、儀式のように台湾に来ると、培養工場に詣でた。しかし目が肥えてくると、稼働しているプールの数、台風による影響なども計算すると、だいたいどの程度の原料が取れるか、大まかに予測がつくようになる。他の培養会社の話も聞くようになる。特定の企業の言い分で記事は書かなくなるわけだ。
帰りもホテルまで送ってくれるという。待つ間に王さんが薄茶色の実が沢山付いた枝を持ってきた。
「この実は美味しいですよ」と言って、そのカラのような外皮を剥いて口に放り込んだ。私も同じように手で皮を剥いた。するとブドウのような果肉が現れた。口に入れると食べたことのない、甘酸っぱい味がした。
「竜眼と言います」
確かに絵に描かれている龍の目のようだと思った。
(ヘルスライフビジネス2017年10月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)