薬事法の改正 問題はすべてそこから始まった(90)
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7月1日号の紙上で対談を掲載した。タイトルは「健康自然食で成人病は防げる」。出席者は顧問の渡辺正雄先生と、上田寛平さんだった。上田さんは日本綜合医学会の常任理事で健康食品の法規制について業界きっての論客だった。
この人には一度、日本健康食品製造事業者協会の記者会見で会ったことがあった。「うまくいったんだ」と担当の葛西博士に聞くと、思っていた以上に良い対談になったという。ただ両先生は起こした原稿に後から加筆したそうで、それで実際の対談よりもだいぶ中身が濃いものになったという。
目を通しているうちに座談会のある個所で目が留まった。昭和35年の薬事法改正に言及した箇所だ。
「そもそも46通知が出たのは昭和35年の薬事法改正があったからだ」と葛西博士は知ったかぶりをする。どうせ座談会のときに聞きかじったに違いない。とにかくこれが原因で医薬品を規制する法律が健康食品の規制に使われるようになったのだという。よくわからないので、もっと詳しく教えろと言うと、得々として話し始めた。
薬事法の2条には医薬品の定義がある。これは3項目からなっている。医薬品とは①日本薬局方に収載されているもの、②疾病の診断・予防・治療に使用されるもの、③身体の構造機能に影響を及ぼすものなどである。
日本薬局方とは日本で使われている代表的な医薬品の性質、純度、定量法などを定めた公定書で、分かりやすく言えば薬のリストだ。医薬品に使っている成分などが載っているので、ここにあれば医薬品だということになる。後の2つは効果である。予防や治療の効果を目的にしていれば医薬品で、身体の構造機能への影響を目的にしたものも医薬品だという。しかしどうも納得出来ない。「なんだか変だよね」というと、博士もそうだという。
まず日本薬局方には純然たる医薬品も載っているが、ニンニクやショウガなど香辛料としても使われているものも一杯載っている。さらに効果について治療はさておき、予防は食品や食生活に負うところが多いはずだ。ましてや身体の構造機能はむしろ食品の効果としても不思議ではない。
「たしか厚生省(現・厚労省)もいっていたよねェ」というと葛西博士もうなずいた。
この頃、厚生省は(昭和53~63年)第1次国民健康づくり対策というのを実施していた。このなかで基本的な考え方として、成人病予防のための第一次予防の推進を掲げている。そしてこの予防は栄養、運動、休養を通じて行うことになっていた。
栄養で予防しろといっているのに、いざとなったら予防や薬だといわれてもとても誰でも納得できるわけがない。
「しかしこうしたことになったことには、原因があるんだ」と博士はいう。
薬事法は新憲法のもとで戦後間もない1948年(昭和23年)に施行された。そのときの薬事法には医薬品の定義の身体の構造機能云々の後に、「食品は除く」という言葉が付いていた。ところが昭和35年(1960年)の改正のときに取り除かれることにいるのなった。問題はすべてそこから始まった。
(ヘルスライフビジネス2018年1月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)