裁判で46通知の正当性のお墨付きをもらった(98)

2024年7月16日

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この二人の顧問がそろえば、当然健康食品の規制の話になる。「そういえば、『つかれず』の判決が出たようだね」と渡辺先生が切り出した。上田先生の見解を聞きたかったのだろう。

業界注視のなか、クエン酸の健康食品『つかれず』の薬事法違反の裁判が最高裁で争われていたが、9月28日にこの判決が出た。結果は大方の予想通り、被告である企業が有罪になった。

この事件はつかれ酢本舗という会社が製造した『つかれず』という製品に効能効果を言って販売したため、薬事法違反として取り締まられたものだ。たいがいの企業は違反に問われると罪を認め、罰金を払って済ませるが、この会社の経営者は違っていた。

創業者は長田正松さんという方らしい。勤め人だった頃に自分の健康状態が酢で改善した体験があり、これを事業化するため1965年に会社を興した。『つかれず』と命名して、粉末と錠剤の健康食品を通信販売で売った。自身の体験から、製品には自信もあった。

この製品を買ったお客に、同封した宣伝用のパンフレットで効果があると書いて知らせるのは当然のことだったかもしれない。おそらく薬事法違反になるなどとは思いもしなかったに違いない。

お客さんに良かれと思って情報を伝えたのだろう。しかし、取り締まる方はそうではなかった。問題になったのだ。

パンフレットでは、「高血圧、糖尿病は酢で治り易い病気」、「低血圧、貧血、胃下垂を治す」などの効果を謳っていた。おまけに通常の治療に使われている薬を、「ゴマカシ薬」、お酢を「病気を治そうとする原因療法のクスリ」とまで言っている。少々やり過ぎた。それで薬事法違反になった。

しかし、違法であることを認めず裁判になった。地裁、高裁で敗訴したが、結局最高裁へ上告することになった。この結論が出たのだ。

「この判決が面白い」と上田先生はいう。というのも、無罪を主張した裁判官がいたからだ。そして裁判官全員の総意として裁判長が判決に意見書を付けた。これによると、無罪を主張したのは木戸口久治という裁判官だった。4人のうちの一人だから、その意見は決して軽くない。

木戸口さんによると、医薬品が薬事法で厳しく規制されているのは、病気への効果はあるが、危険性もあるためだという。しかし食品は効果があっても危険性がない。特に「酢」のようなものに一般的な効用をいうのは自由で、効能効果を言ったとしても医薬品だとして、薬事法の規制を適用すべきではないというから驚きだ。

ただし、これが医薬品のように特定の病気が治るような効能効果を言って販売されると、医薬品と誤解されて適切な医療を受ける機会を失わせる可能性がある。そのため今回の事件が規制の対象になることは仕方がない。

しかし、こうしたことを前提に成分や効果だけでなく、名称、形状、使用目的・効能効果・用法用量、販売方法、演述・宣伝などを総合的に判断して決めるべきであるとしている。

「葛西君、役所は何と言っているんだ」と渡辺先生はこの件を取材している葛西博士に聞いた。確かにこの判決を受けて厚生省がどのように考えているか興味深いところだ。

「この判決で、役所は46通知が認められたといっています」という。

国の法令には「法律」、「政令」、「省令」と3つのランクがある。法律は国会で決める。政令は閣議決定を経て政府が決める。

「省令」は各省庁で決める。これらは守らなければ罰則がある。しかし「通達」、「通知」というとやや違う。各省庁から地方自治体の関係部署に出すもので、「通達」には地方への命令的な要素があるが、「通知」は行政同士の助言といった位置づけで、行政以外の一般の人に当てはめ、守らないからといって罰則を与えてはならない。

しかし、この裁判での判決で役所は46通知に違反することは薬事法に違反することになると解釈しているらしい。

「役所が裁判所からお墨付きをもらったということですよ」

(ヘルスライフビジネス2018年5月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第99回は7月23日(火)更新予定(毎週火曜日更新)