【規制】逮捕報道だけで社会は有罪のように判断する(40)
業界に必要な情報を一般マスコミは報道しない
※「ヘルスライフビジネス」2024年2月15日号掲載の記事です。 2月7日に兵庫県警は「プラセンタ」の美容クリニックなどへの販売容疑で、都区内の会社社長らを逮捕しているが、健食なのか明確でない点もあり、今回は別の事例を解説する。昨年11月21日の薬機法違反容疑による神奈川県警の日本食菌工業(N社)への摘発について、筆者はこれまで一般マスコミの報道以外のことは知らなかった。しかし、当紙編集部によるN社への取材で、容疑の内容や摘発後の経緯が一般マスコミの報道内容と異なることなどを知った。健食広告の摘発において、このようなことは珍しくはないが、業界としての留意点はなにか私見を述べたい。
逮捕だけしか報じられなかった健食事件の分析と検討
「日本食菌工業」事件の一般マスコミの報道
リードで紹介したN社の摘発事件について、毎日新聞のウェブ上の報道から摘発理由などを整理すると次のようになる。
① N社は令和2年12月~3年2月に、50~80代の男女4人へ「姫マツタケエキス顆粒10日間お試しセット」など計10点を約11万円で販売し、令和2年6月以降、46都道府県の約900人に計約1億7千万円を売り上げたとみられる。
② N社はホームページやチラシで、この製品について「腫瘍が99%よくなりました」などと宣伝していた。
③ 21日に逮捕された2人の容疑者(氏名を報道)は姉妹で「医薬品に該当するかはグレーと思っていた」などと容疑を否認している。
テレビ神奈川もウェブ上で同様に報じているが、県警のサイバーパトロールがN社のホームページで「商品を飲んだらがんが治った」という記載を発見し捜査が始まったとしている。
ただし、これ以外のネット上での情報の中には「『がんが治った』などと宣伝・販売していた」ことは県警の報道発表には含まれていなかったとしているものもあった。
一般マスコミが報じない事件の内容
1月に当紙編集部がN社に直接取材して、それまで一般マスコミの報道ではわからなかった次の点がわかった。
(1)令和5年2月に家宅捜索を受け、警察が指摘したのは「商品購入者にパンフと共に体験談を送り、そこに効能効果を記載した」点だった。
(2)11月21日の逮捕の後。12月になって罰金刑を受け、事件は終了し、その後も営業を継続している。
上の(1)についてはN社のホームページでの「薬機法違反についてのお詫び」でもそのように述べられており「ニュースにあるようなインターネットのサイト上で、直接的な効果や効能を掲載した事実はありません」とされている。
従って、N社の主張によれば、一般マスコミが報道した②は虚偽だったことになる。通常の場合、これらの報道は警察の発表に基づいて行われるが、②は県警の報道発表には含まれていなかったというネット上の情報もあり、報道が明確でない。
また(2)を一般マスコミが報道しないと、社会からは容疑による逮捕だけで有罪であるかのように判断されてしまう。
今回の一般マスコミ報道の問題点
N社の主張を信じることにして、一般マスコミの報道における問題点を検討してみよう。
(1)については、もちろん、商品に添付・同梱した資料でもネット上の広告と同様に規制される広告であることに変わりはない。しかし、新規顧客の獲得が目的の場合と既存の顧客のフォローが目的の場合とでは違反の程度が異なると判断される可能性はあるはずだ。
②の報道が県警の公表資料に含まれていなかったのであれば、それ以外に捜査官がマスコミに情報を伝えたと推測できるが、正確なことが報道されなかったことになる。
特に健食事業者には、違反に関する正確な情報の把握と理解が、同様の違反を避けるために必要であるが、今回の報道は
それに関して不十分だったと言わざるを得ない。
(2)が報道されたとしても、N社の印象がよくなるかは異論もあるだろうが、起訴⇒裁判と略式起訴⇒罰金のみ、では社会的な印象がかなり異なることは間違いないはずである。
この事件から広告実務上で参考にするべき点
N社が罰の軽くなることをねらって、既存客や試供品の荷物に効能効果を標ぼうした資料を同梱したのであれば、もちろん、規制の対象になる。
しかし、正式に起訴されず略式起訴から略式命令になって罰金刑で済んだことは、検察官が新規客への広告と既存客やそれに準じる客への広告を区別したと推測できる。検察官は、万が一にも裁判で既存客への広告なのに、新規客への広告と同じに扱うのは誤りとされることをおそれ、裁判にない略式起訴を選んだのではないかと、筆者は考えている。
とは言え、お試しセットに同梱したのであれば新規客と同じと言えることもできるので、違反事例として実務の参考にするには、正確な情報が必要である。しかし、今回の事例でも明らかなように、一般マスコミの報道が必ずしも正確とは限らない。業界としてはその点に留意が必要になる。
また、一般マスコミは逮捕などの強制捜査は報道しても、その後の不起訴処分や略式起訴について報道しない場合がある点にも留意するべきだ。誤りを反省して事業を継続するためにも、罰の程度を正確に一般消費者に理解して貰うべきで、N社の「お詫び」広告はその点で参考になる。
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