食品と薬の間のダブルゾーンに線引きが必要だ(107)
バックナンバーはこちら
私が会社で聞いたのは健康食品の薬事法の規制に対応するマニュアルのようなものを作るということだった。少なくとも編集長からはそう言われて、ここにやって来た。しかし著者になるはずの上田さんの考えとはだいぶ違うことが次第に分かって来た。
ただし、話を聞くうちに上田さんの法律論に強く惹かれるものがあった。それで当面、この方向で行くことにした。あとは何とかなるだろうというのが私の見積もりだった。
上田さんの視点は他の業界の人とは違っていた。おそらく青春の頃、真剣に法律を勉強したことがかなり影響しているのかもしてれない。ともかく、本質を突いてた話であることは間違いなさそうだった。
その一つが食薬ダブルゾーン説だ。食品と医薬品は法律的には別物だが、重なる部分がある。そしてそこが今、争点になっているという。
「確かにそうですね」というと、嬉しそうな顔をした。多少分かる奴が現れたかといったところだろう。しかし本当はまだたいして分かったわけだはない。それはともかく、上田さんの話は続く。
「局方って知ってるかい」という。
確か薬事法の薬の定義には日本薬局方という薬のリストがある。「それですか」といいと、「そうだ」という。これに入っているものは、薬事法で医薬品と定められている。ところがこの薬の中に多数の食品が含まれている。ヨクイニン(ハト麦)、カンゾウ(甘草)、カッコン(葛根)などの生薬として使われているものはまだしも、白糖、ハチミツ、葡萄酒など誰が見ても食品にしか見えないものまである。
「これを医薬品だといわれても、多くの人が納得できないだろう」という。
確かにその通りだと思うが、そればかりではない。生薬として入っているものでも、食品として使われてきたものも多い。甘草などは江戸時代には和菓子の甘味に使われていた。葛根は他の生薬を加えて漢方薬の葛根湯になるが、同じ葛の根から取ったでんぷんが葛粉だ。これに砂糖入れてお湯に溶いたものは葛湯という。子供の頃、風邪をひいたとき母親が飲ましてくれたことを思い出す。
そういうと、「そうなんだよ。葛根湯は医薬品だが葛湯は民間薬なんだ」という。民間薬は医薬品ではないから食品になる。これを薬事法で規制することは本来おかしなことだ。
確かに生薬は漢方薬の原料として使ってきたが、食品や民間薬としても使われて来たった。薬事法が出来て薬でもないのに薬事法で規制されては納得がいかない。栄養素についても同じだ。つまり食品と医薬品はダブルゾーンにあるというわけだ。問題なのはこのエリアに線引きが出来ていないことだ。
ところが薬事法の薬の定義には病気の診断、予防、治療を目的としたものは医薬品だとしている。だからこうした効果をいうものはすべて医薬品だということになる。
「いくら食品に食効があるからと言って、ふすまにビタミンB1が入っているから脚気が治るといって良いわけではない」
なぜかというと、医薬品の存在を頭から否定することになるからだ。それではどうするかというと、食品と医薬品の間に妥当な線を引くことが必要だという。
「でも厚生省の薬の担当者は口に入るもので効果のあるものはすべ医薬品だといわんばかりですよ」というと、「そこでだよ」といって、薬事法の薬の定義の2条1項3号の条文を示した。
そこには3つ目の医薬品の定義として、身体の構造・機能に影響を及ぼすことを目的にするものという条文があった。
このなかに“食品を除く”という言葉が付いていた。少なくとも昭和32年の薬事法大改正までは。
「これを使うしかない」これが上田さんの食薬ダブルルゾーン説から導き出された結論だった。
(ヘルスライフビジネス2018年9月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)