【規制】不測の事態にいつでも対応できる準備を(44)

2024年9月4日

※「ヘルスライフビジネス」2024年4月15日号掲載の記事です。                       紅麹の事件はまだ終息の気配が見られない。筆者には漢方薬・健食販売の薬店グループでの危機管理の実務体験があるので、それに基づき健食販売の危機対応について私見を述べたい。今回の事件は、当該事業者の製造と危機管理での不手際が発端になったようだ。製造について筆者は専門外で、機能性表示制度創設後はじめての製造での事故で予測できなかったのかどうかはわからないが、不適切な事後処理に弁解の余地はない。製品に問題はなくても苦情やトラブルは予測できず、事前からの準備が必要である。どうすればよかったのか、筆者の見解は次の通りである。

危機管理の視点からの苦情・トラブルの対応方法の検討

健康被害の苦情に関する対応の留意点

 健康食品は病気のある人が利用するものでないというのは建前であり、実際には事業者側からの区別はむつかしい。従って、製品に原因があるなしに関わらず、健康被害の苦情はいつでも起こり得ると想定することが危機管理上避けられない。

 苦情やトラブルには、今回のように製品自体に原因がある場合も、そうでない場合もあり得るが、事業者側の立場や都合だけで、それ以外には根拠のない判断が、事件を拡大させる要因になると、筆者は考えている。

 健康被害は経営の根幹を揺るがすわけで、常に最悪の事態を想定し、それに最善を尽くす方針で対応するしかない。その場合、事態が生じてから対応するのでは、最善の対応ができず、相談できる医師や専門家への依頼などを含めて事前の準備が不可欠になる。

 対応はできるだけ早く行う必要があり、そのために事態の内容を早く正確に把握しなければならない。事前の準備がありいつ苦情やトラブルが生じても適切に対応できるかどうかで、結果は大きく異なるはずである。

苦情一般に関する対応の留意点

 健康被害ではなくても様々な苦情・トラブルがあり、客観的にみてそれが起きて当然の場合もあれば、相手に意図があっての場合もある。それに対して前項で述べたように、事業者側の立場や都合だけで判断し、事態の内容を読み誤ると、望ましい解決ができなくなることは言うまもない。

 最善の解決を得るためには、正確な実態の把握に基づき、対応者が最初から最後までぶれることのない対応をする必要がある。そうならないのは次のような場合が多いと筆者は考えている

① 苦情の発生に気づかない場合 顧客に不満があるのに気づかず、放置したことで消費生活センターなどへの相談につながるような場合。

② 苦情への初期対応が不適切な場合 苦情が発生したのに、対応が遅れたり、対応の内容が不適切であることで、最善の解決ができなくなるような場合。

 これらも事前の準備が適切に行われていれば防ぎやすいはずで、次項でその留意点について筆者の見解を述べたい。

営業部署と別に対応部署を設けることが重要

 これまで述べてきたように、健康被害を含めて様々な苦情・トラブルがいつでも起こり得ることを想定し、その場合にどのように対応すれば最善の結果が得られるのか、事前に準備することが危機管理の要諦であると、筆者は考えている。

 そのためには、自社の業務上のルールとして、事前に次のような準備が必要になると思われる。

① 苦情・トラブルの兆候を見逃さないための組織 苦情・トラブルにおいて、最善の解決の妨げになる理由の1つは、対応が後手に回ることである。対応が早いに越したことはないから、その兆候を早期に発見することが重要になる。

 そのためには、顧客と直接に接触する部署が、業務上で苦情・トラブルの対応をせずに済むようの組織にしておく必要がある。営業部署が苦情対応を行わなくて済むように、別に対応部署があり適切な対応を行うルールが軌道に乗っていれば、対応を嫌って後手に回るようなことは減るはずである。

② 積極的な兆候の発見 苦情・トラブルへの対応部署が組織的に決まっていれば、事態が生じた場合だけでなく、消費生活センターでの苦情情報の収集など、事前の兆候発見も可能になる。

苦情などの対応部署設定の留意点

 前項で述べた私見の要点は、苦情・トラブルの対応を、それらが発生しやすい部署が行うのではなく、信頼できる別の部署が適切に行える組織の設定にある

① どのような部署が望ましいか もちろん、これは企業の規模などで異なる。規模が大きければ、一定数の担当者がいる独立した部署が必要だし、小さければ1人の担当者が他の業務と兼務することになるのは当然だろう。

 経営のトップが対応するべきか否かについては規模が小さければやむを得ない。対応を誤れば経営の危機を招くのだから社長の職務に適していると言えなくもない。従って、このような対応部署・対応者の職務権限で重要な点は、相手との折衝において、必要な判断が適切な時期に即断できることにあると、体験上からも筆者は考えている

 対応は事業者側に責任のある場合だけでなく、様々な事態が想定される。即断が必要な場合もあるから、その権限を持つ人が責任者になるべきである。業務の範囲は、事後の対応だけでなく、事前に対応を想定した様々な検討による危機への対策策定が当然含まれる。


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