サプリメントにはストレス学的な視点がある(128)

2025年2月11日

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「ああ、そんなのありましたね。セリなんとかという人の話でしょう…」と岩澤君がいった。一瞬、身の縮む思いがした。渡辺先生を講師にやった社内勉強会で聞を開いた。この頃、月に1回定期的に開くようになっていた。毎月送られてくる渡辺先生の「MWレポート」を教材にサプリメントなどに関連した“新しい栄養学”を学んでいた。やったばかりなのに、もう忘れている。怒られると思ったが、「そう、セリエだよ。よく覚えていたね」と渡辺先生に褒められた。

それでセリエのストレス学説の復習が始まった。ハンス・セリエはハンガリー生まれで、カナダのモントリオール大学で医学部の教授になり、「ストレス学説」で一躍世界に知られる存在になった。この弟子に当たるのが日本では農大の教授の田多井吉之介さんで、この人が講談社から出したストレスの解説本『ストレスとはなにか』を勉強会では教科書にした。

この本の中で、ストレスには3つの時期があることを明かしている。まず人や動物にストレスの刺激が加わると、「警告期」から「抵抗期」、さらに「非廃期」と進んで行く。もう少し詳しくいうと、ストレス刺激が起きて「警告期」になると次のようなことが起こる。体温の低下、低血圧、低血糖、さらに神経系の活動が抑制され、筋緊張の減退、血液濃縮、毛細血管と細胞膜の浸透性減退、組織破壊、酸血症、白血球の減少、続いて増加、リンパ球の減少、胃腸潰瘍の症状が起こる。

そしてこのストレスに耐えようとして身体に備わった適応能力が発揮される。これが「抵抗期」である。さらに長期にストレスに曝され、また新たなストレスが加わると「非廃期」に入る。こうなると適応能力が維持できなくなって、身体の破壊つまり病気が発生して、最終的に死に至ることになる。

このセリエ博士は心臓病を引き起こすストレスによる心臓の細胞の壊死を予防する実験で、ネズミを使って塩化カリウムと塩化マグネシウムの摂取量を増やすことで予防が可能になることを突き止めている。

さらに寒風と降雪に曝されたネズミの実験をしている。寒さのストレスが加わると、これに対抗するため副腎が肥大化する。この副腎はビタミンCを大量に含有する臓器で、ストレスに応じてホルモン分泌が増えるごとに、ビタミンCの量が減ることが明らかになっている。ネズミは身体の中でビタミンCを作れる。このためストレスが掛かると寒い環境でビタミンCの量を増やす。しかしビタミンCの生産能力を持たないモルモットはエサの中のビタミンCを増やさないと死んでしまうという。

「つまりストレスが掛かると、身体の中のビタミンCの体内要求量が増加するというわけだ」と渡辺先生。ビタミンCの合成能力を持たないのは人もモルモットと同じだ。ストレスが掛かる環境にいる人はビタミンCが失われやすい。それでこれを補う必要がある。このため大量の投与が必要だと主張したのがライナス・ポーリング博士だ。この頃の国が進めるビタミンCの1日必要量が50㎎なのに、ノーベル賞受賞の化学者のポーリング博士はその40倍の2000mgは必要だとした。これだけのビタミンを摂るには通常の食品からでは難しい。サプリメントが必要だがようになる理由がここにある。

「豊川さんのような正統派の栄養学者はこのストレス学の視点が欠けている」

ストレスを前提にすると、通常の食生活で摂れる栄養素の量では足りない栄養素もあるわけで、現代人が健康を維持するためには食事にサプリメントを含めなければならいことになる。後年の話になるが、福場先生から聞いた。国の栄養基準(所要量)が決して満足な栄養素の量だと思っている学者はほとんどいないということだった。栄養所用量は最低限の栄養の量に抑えられている。理由は給食や生活保護の家庭の食品に関係しているからだそうだ。米国などでは発展途上国の援助に関係しているので、高くするとそうした予算を上げなくてはならなくなる。

「所要量は政治的に決まっているんです」という。知らぬは栄養士ばかりなりということかと呆れた。

(ヘルスライフビジネス2019年8月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第129回は2月18日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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