経企庁の調査の主役は厚生省だ!?(132)
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大手の新聞がこのニュースを見逃す訳はない。通常、この手のニュースは前日に記者クラブに書面で知らせる“投げ込み”が普通だが、騒ぎを大きくするには記者会見で派手にぶち上げる。このニュースは後者だったかもしれない。
発表されたその日の夕方にテレビニュースのネタになり、繰り返し夜いっぱい放送される。そして、翌朝には朝刊の3面辺りで大々的に報じられる。我々が見たのはそれだったに違いない。新聞に載ると、今度はテレビのワイドショーの出番だ。さんざん「ああでもない」、「こうでもない」と食い散らかす。その後、週刊誌がハイエナのように群がり、翌週の記事になる。こうしてさんざんしゃぶり尽くされて、後には骨と皮だけが残る。これが目にしてきたマスコミの姿である。
「しかしなんでまた経企庁なんだろう」と編集部の誰もがそう思った。
経済企画庁(経企庁)は総理府の外局で、経済計画の立案や経済政策の調整などを行う役所だった。知りうる限りで、この役所が健康食品に関係したのはこれが最初で最後だった。
こういうときに限って情報通の加藤さんがいないのは痛かった。ジャーナリストの修行で業界を離れてしまったことはすでに書いた通りだ。
仕方なく、ある政治家の秘書に連絡をとった。しばらくすると「だいたい分かった」という連絡が入った。それでどこかで会おうということになった。指定された時間は夕方だった。これではお酒を奢らなければならない。お金は会社からは出ないから自腹だ。新聞屋が奢るとすると、安飲み屋と相場は決まっているので、相手も期待はしていない。だから大した出費にはならないが、やはり自腹は痛い。
神田の駅で待ち合わせ、路地の奥の居酒屋カウンターに面付き合わせて、低い声で話し始めた。
「なんか分りましたか」というと、ニコリとして「多少ね」と出し惜しむ風だ。
「あくまでも噂だよ。あくまで…」と前置きして、秘書は話し始めた。それによると経企庁が調査の表に立ったのは業者を欺くためだったのではないかという話だった。というのも、調査では商品のパッケージだけでなく、企業の社内資料やニュースレターなども収集したそうだ。そうでなければ、あれだけの薬事法違反は見つからない。
「どうも主役は厚生省のようだな」という。さすがに健康食品問題を手掛けてきた議員の秘書だけのことはある。さすがは地獄耳だ。
確かに厚生省の名を出しては企業の協力を得られるわけない。しかも、経企庁の担当者は消費者を偽って企業に連絡を取り、収集が行われたと専らの噂だそうだ。
この頃、商品のパッケージやラベルに効果を表示する会社はほとんど見かけなくなっていた。効果をいえば薬事法違反に問われることくらい知らない業者はいなくなっていた。たまたま新規参入などで知らない業者がいても、たいがい製品は受託製造企業が作るので、そこでチェックが入る。
違反も用法用量程度であれば行政指導で済むが、効能効果だと行政指導も厳しい。商品回収ともなれば、企業のダメージは大きい。指導に従わない企業や特に悪質とみなされた場合は警察が動くことにもなる。
ところが、社内資料やニュースレターなどであれば、行政の目に触れることはない。店頭などで販促に使わなければ、薬事法違反になりづらい。役所の知るところになって、行政指導されても、それだけを廃棄すればそれで済む場合もあるので、ダメージが少ない。そのため、薬事法の規制でパッケージには記載できない用法用量や効能効果については社内資料やニュースレターなどを使って、消費者に知らせるというやり方をしている企業が少なくなかった。
「役所側にずいぶん業者の事情を知っている奴がいるようだ」といって、からしばらく考えて、「これは健康食品タタキの始まりかもしれないなァ」とつぶやいた。
(ヘルスライフビジネス2019年10月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)