役所が健康食品で何かを調べているぞ!(130)

2025年2月25日

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塾に入るのは年明けからだという。そして卒業した暁には晴れて、ジャーナリストになるのだそうだ。

「卒業したからといって、そんなに簡単に仕事にありつけるんですかねえ」というと、自分の夢を掻き乱されたような不快な顔をした。夢見るおじさんなんだ。その夢を壊してもかわいそうだと、現実的な話をするのは止めにした。

とはいえ、いくら時の人若宮清の塾を出たからといっても、40歳を過ぎたてマスコミの経験もないおじさんを雇う新聞社や出版社はない。そうなれば、おそらくフリーのジャーナリストになるしかないのだ。

このフリーとはフリーランスが語源らしい。中世の雇われ武士のことである。つまり傭兵のことだ。雇用主がいればよいが、いなければ単なる無職のおじさんである。とにかくフリージャーナリストとは聞こえは良いが、プータローとほとんど変わらない。

さらにこの塾は国際政治を報道するジャーナリストを育てることが目的だそうだ。加藤さんは英語の日常会話くらいは出来るかかもしれない。しかし流ちょうに話せるとは聞いたことがない。話せないとすると、外国へ行けても取材出来ない。人生の折り返し地点まで来て、誠に無鉄砲な選択をしたものだ。

とはいえ本人はそんなことはまったく意に介さないようだ。先日、合格者の集まりがあって、指定されたところに行ってみた。すると大半が大学生で、40歳の加藤さんは一番年上だったという。

「なんだか塾頭みたいになっちゃってさあ」

なんと楽天的な人だと呆れた。

「ところで心配なことがあるんだ」と加藤さんは神妙な顔つきをした。

どうも役所が健康食品の調査をしているらしいという。何か知らないかというわけだが、その時点では我々は何もつかんではいなかった。学者の先生から気を付けた方が良いとタレ込みがあったという。ただしその先生は行政を恐れて、具体的なことは何も語ってくれないそうだ。

国の情報を知っている学者というと、国の委員かなんかをしているに違いない。すると国立大学の先生か、退官して私立大学に天下った先生の誰かだろう。健康食品に関係しているというと、すぐに何人かが頭に浮んだ。しかしそれらの人たちは何らかのかたちで、国から研究費をもらっている。民間からはスズメの涙だ。それでお上を恐れる。逆鱗に触れたら、干上がってしまう。だから口が堅い。聞いても加藤さんに語ったこと以上はおそらくいうまい。

役所が調べている事柄は「あまり良くないことなんですね」と聞くと、「どうもそうらしい」という。業界を去るのにこのことが心残りだとう。

役所は年度で動く。今年調査に動いているとしたら、その中身を明らかにするのは年度末に当たる来年の3月末だろう。あと3か月ちょっとしかない。ということは今更じたばたしてもしょうがない。その時期を待つしかないということだ。

「ところで上田先生の本有難うございました」と加藤さんに礼をいった。急遽出版しないことになった上田寛平さんの薬事法の本のことだ。加藤さんの尽力で、東洋医学舎から出版できることになった。そのお礼をいったのだ。

「まだ怒っていますかねえ」というと、「もう平気だよ」と加藤さん。渡辺先生がうまく取りなしてくれて、出版が決まってから上田さんはえらくご機嫌だという。

「出版は来年の6月頃になると思うよ」

ならばこれで一見落着である。杯を交わして、加藤さんとは別れた。

(ヘルスライフビジネス2019年9月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第131回は3月4日(火)更新予定(毎週火曜日更新)

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