連載「常識を疑ってみる!」玉川大学農学部教授 渡邊博之氏
第23回「宇宙船地球号を支えるのは、LEDの未来型農業か」
玉川大学のフューチャーサイテックラボを訪ねると、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」を模した建物が存在感をもって出迎えてくれる。ここで、宇宙空間での食料供給を行う「宇宙農場」の研究が進められている。「光と植物」を追究してきた渡邊氏の研究成果が、具体的な形となって世界に影響を与えようとしている。私たちの未来の食糧事情を思い描きながら、氏の半生を掛けた宇宙への夢を伺った。
「私が、LEDやレーザーなどの光半導体素子を使った植物栽培研究を始めたのは1992年のことです。当時のLED(発光ダイオード)は微弱で、インジケータ―に使用される程度のものでしたので、植物にエネルギーを与えるような光源には到底ならなかったのですが、ラッキーなことに1993年に、のちにノーベル物理学賞を受賞する中村修二氏が青色LEDの実用化を実現したことで、植物栽培に大きな影響をもたらしたのです」
青色LEDは植物の生理にとても強い影響を与える重要な光だという。これを機に、氏の研究は躍進した。
「植物は光によって生育を左右されます。光の色や強さによって味や色味、歯ごたえなども違ってきますし、含有する栄養素や機能性成分の量の増減も調整できるようになります」
同じレタスでも、ビタミンKが通常の3~4倍含まれているロメインレタスが、「夢菜」という大学のブランド名で市場に出ている。また現在、ロスマリン酸がリッチな青じその研究も進められており、今後、認知症やうつ症状に効果のある青じそを効率よく生産できるかもしれない。片や、抗がん成分であるアルカロイドの含有量を高めた薬草を作り、医療に貢献できる可能性もある。
「人々の健康や医療に寄与する植物を安定的に供給できるというのは、LEDのメリットですが、さらに言えば、近い将来の環境問題や食糧問題を乗り越えていく方向性として、こうした植物工場の進展は必要なんだろうと思いますね」
100億人を抱えるのは難しいとされている宇宙船地球号。そもそも氏の研究のスタートは、人類の宇宙への進出を想定したところにあったという。
「宇宙での食料自給の問題は、タンパク質と炭水化物の供給にあります。私は、炭水化物の供給源として有力なのは可食部の多いイモだろうと考えて、ようやくピンポン玉のようなまん丸のジャガイモの栽培にたどり着いたのですが、こうした同じ夢を持って、学生たちと切磋琢磨する日々は、とても有意義ですね」 月面でのジャガイモ栽培の夢を乗せて、宇宙農場ラボでの研究は現在進行中だ。
(ジャーナリスト 後藤典子)
渡邊氏の取材動画「ヘルスデザインラジオ」はこちら