ヘルスケア対談(3):UHA味覚糖・山田泰正社長×JAHI・今西信幸会長
食品・菓子がヘルスケアの問題解決策として注目
口腔環境を整えフレイル対策に寄与する「シタクリア」
超高齢社会となった我が国の最大の課題は健康寿命の延伸であり、その実現には治療から予防へのパラダイムシフトと、食を通じた疾病予防、介護予防が不可欠である。今回、日本ヘルスケア協会(JAHI)の今西信幸会長との対談に臨むのは、菓子という剤形を用いて予防領域の市場創造に取り組むUHA 味覚糖の山田泰正社長。同社が帝京大学医真菌研究センターと共同開発した「シタクリア」シリーズは今、健常者から寝たきりの方まで、幅広い生活者の口腔ケアをサポートする商品として注目を集めている。山田社長は、「自ら限界を定めず、我々に共感頂くすべての方々と共に前へ進み、ヘルスケア産業の発展と社会への貢献を目指したい」と語っている。(月刊H&Bリテイル 2020年7月号より)
「シタクリア」は画期的な発明
今西会長 かねてより私は、UHA味覚糖の商品開発のベクトルがヘルスケアに向かっていることに興味を持っていました。
ヘルスケアは予防であり、疾病予防、介護予防などと表現できますが、「シタクリア」シリーズは、介護の領域における画期的な発明だと感じています。
介護は多くの方が通る道です。加齢とともに衰える身体機能は100%回復することはありませんが、50%になった機能を維持すること、また50% を60%、70% に高めることは可能です。その意味で介護予防に終わりはなく、関連する商品には安定性があり、市場拡大の余地も大きいと考えています。
当協会は介護予防の1つを「フレイル対策」と定義して部会活動をおこなっています。フレイル対策にも「シタクリア」のような商品が求められていることを、読者に知って頂きたいと考え、今回の対談に臨みました。
山田社長 冒頭から有難いお言葉を頂き恐縮です。
当社は「おいしさはやさしさ」という標語を掲げ、人が「おいしい」と感じるものは「体に良い」との確信を持って、時代ごとの問題を解決するために、商品を開発してきました。
例えば、戦後の創業当時は栄養問題を解決すべく、砂糖を用いて上質なカロリーを安価に摂取できるよう努めてきました。こうした活動を長く続ける中で、お菓子は様々なマテリアル(原料) を手軽に提供できる優れた剤形であり、広く普及することで問題の解決に導く、いわゆる“ メディア”の役割もあると考えるようになりました。
「シタクリア」も、そこから生まれた商品の1 つです。今から8 年前、帝京大学から「口腔内のカンジタ菌を除去させる物質を研究しており、それを摂取できる食品を開発できないか」と持ち掛けられました。
興味を引かれたのは、「医薬品ではなく、積極的に摂取したくなるようなお菓子にしたい」と言われたことです。どのような形状が良いか考えた末に、口腔内に長く留まる「飴」が良いとなり、商品化の第一弾として2016 年に発売しました。
ただ、明確なエビデンスがあり品質にも自信を持っていましたが、既存市場に無いジャンルのため、誰がどのような時に必要としてくれるのか判らなかったのも事実です。そんな時に、ウエルシア薬局の小原道子さんに、当商品を見つけていただいたのです。
当初、「口腔環境を整える」という狭い市場の中で販促を考えていましたが、小原さんは「口腔環境を整えることはフレイル対策の第一歩」「この商品はフレイル対策で健康を考えるスターターになる」と言ってくださり、そこから販促方法を組み立てていきました。販促の方向性を決めたことで、新たなアイディアも出てきました。飴の次はタブレットを商品化し、さらに小原さんから、「嚥下困難により誤嚥性肺炎になる方が多い」というアドバイスを頂き、ジェルタイプをシリーズに加えました。
小原さんは岐阜薬科大学の客員教授(今年春に同大学で薬学博士号を取得)も務めており、現在は当社の研究成果に、同大学で証明したエビデンスを上乗せし、新たな可能性を追求しているところです。
最適な商品を最適なチャネルで
今西会長 通常は市場のリサーチをベースに商品開発をすすめるものですが、「シタクリア」は全く異なるアプローチで生まれた商品なんですね。
発見した原石を、どのように磨き上げていくのか、その解決のプロセスも興味深いです。
山田社長 当社がヘルスケアを念頭に開発した商品に「グミサプリ」シリーズがあります。
例えばシリーズの「マルチビタミン」は1 日2 粒で11 種類のビタミンが摂取できますが、その2 粒の摂取を、義務ではなく、「2 粒で止めないと」と思わせるおいしさ、手軽さ、すなわちお菓子の剤形であったことがヒットの要因だと分析しています。同シリーズの実績を応用し、あらゆる素材・成分を菓子という剤形に乗せて開発できるのも、当社の強みですね。
今西会長 JAHI のロゴマークの隣には、平均寿命と健康寿命の差(男性は9 年、女性は12 年)を添えていますが、健康寿命の延伸を実現するツールとして、食品、中でもお菓子には可能性を感じます。
昨今は、世界的な競争激化で新薬の開発が難しい状況にありますが、その中でテルモやニプロのように、薬剤のシリンジ開発で優位性を発揮している日本企業があります。御社に置き換えると、健康維持に必要な素材・成分を、飴やグミやジェルといったパッケージに乗せられることに優位性がありますね。
山田社長 そうですね。我々の持てるパッケージをフル活用して、「自分の状態、悩みに合うものが無い」と諦めている方々に、最適な商品を最適なチャネルを通して届けたいと思っています。
今西会長 疾病予防や介護予防は、日本の皆保険制度を維持する上でも重要です。ことさら食品は、単なるカロリー・エネルギーの補給から、予防の領域を網羅していく方向へとシフトしつつあります。
そして今後は、ドラッグストアのみならず、SM も百貨店も家電量販店も、予防・治療・介護をワンストップで提供する“ ヘルスケアの拠点” を標榜すると考えられます。
中でも介護は皆が注目しており、食品メーカーも相次ぎ参入してくることが考えられますが、御社には是非、食品業界におけるヘルスケアのリーダーになって欲しいのです。
山田社長 ヘルスケア産業への期待が高まっていることは間違いないですね。
最近は当社にも、医療系大学からの開発依頼が増えています。研究成果の出口を求められてると感じると同時に、食品がヘルスケアの問題解決策として注目されていることを感じます。
「シタクリア」を開発した経緯もそうですが、当社はまず、面白い商品を世に送り出したいという風土があります。この風土が、ヘルスケアの追い風に乗っているのかも知れません。
ヘルスケア産業の雄を目指して
今西会長 先の帝京大学との取り組みしかり、御社が医療の領域とパートナーシップを結んでいることは、とても重要だと思います。
「医」の世界には根底に、「社会の役に立ちたい」という考えがあります。御社にも、その剤形と多様なパッケージを活かしながら、ヘルスケアを通じて社会に貢献するという姿勢をアピールしてもらいたい。その姿勢は必ず「医」の世界への説得力となり、好循環を生むはずです。
山田社長 我々は「シタクリア」の剤型・パッケージに自信を持っていますが、その主成分として帝京大学と共同開発した「DOMAC ※」の可能性も強く感じています。「医」との連携を深めながら、DOMAC を用いたフレイル対策、さらに美容の分野にも軸足を伸ばし、社会に貢献していく所存です。
そのためにも、従来の環境下で、自らの限界を決めるようではいけないと考えます。商品や成分の優位性を広くアピールし、それに共感頂けるすべての方々とともに、社会に役立つことをやっていきたい。
世間的には、当社のこうした活動が迷走状態に見えるかも知れません。ただ、それは決して迷走ではなく、可能性を引きだすための戦略的な投資であることを、理解して頂きたいです。
今西会長 私も、「シタクリア」の開発に至る一連の取り組みは、決して当たり前のことではなく、業界、ひいては日本にとって有意義だと思います。その意義を広くアピールしていけば、他の食品や食品メーカーとの差別化になり、新たな市場の創造が実現するでしょう。
御社が目指される世界は、世の中がまだ手を付けておらず、やりがいのある分野です。その取り組みが一度認められれば、世の中がガラッと変わることもあり得ます。
ちなみに、欧米のヘルスケアはGDP の約4 割を占める巨大な産業ですが、日本はその状態にありません。
それは、関連領域の産業が、厚労省、農水省、環境省にまたがっていることに起因します。
アメリカには、ヘルスケアの領域を横串しにしたFDA(食品医薬品局、Food and Drug Administration) が存在し、産業の発展を底支えしています。最近は日本の経産省が「ヘルスケア産業課」を立ち上げ、各領域を総合的に発展させようという機運も生まれています。御社にも是非この流れに乗って頂きたいですね。
期待に応えられるよう邁進
山田社長 菓子メーカーである当社にこのような形で光を当てて頂いたことは過去になく、今回の対談は大変ありがたいと感謝しています。
この光が、ヘルスケア産業に参入する我々の投資を後押しし、菓子・食品業界のみならず、産業全体のすそ野を広げる取り組みに発展できれば素晴らしい事です。皆さまの期待に応えられるよう、今後も商品開発に邁進していきますので、引き続きのご指導をお願い申し上げます。
今西会長 御社がメーカーである以上、営利の追求が最大のミッションであることは理解していますが、それと並行して、世の中に役立つ活動にしっかりと取り組んでいることを理解できたことを嬉しく思います。
今後御社が、ヘルスケア産業の旗手となり、世の中の問題解決を通じ社会に貢献する企業として成長・発展していくことを、心より願っております。