展示会のブースに日本人がいた(51)
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ウイリアム・プロキシマイヤーはウィスコンシン州選出の民主党の上院議員だった。彼がどんな理由でサプリメントの業界と縁があったのかは知らないが、おそらく業界の働きかけがあっただろう。1974年8月に加工食品のビタミンの含有量をRDAの150%以下に制限するというFDAの規制を改正法する審議が議会で始まった。この一部が2013年のニューヨークタイムスの記事で紹介されている。
審議にはFDAの規制を支持する消費者団体の弁護士マーシャ・コーエンが出席した。彼女は机に8個のマスクメロンを置いて、「あなたは1000㎎のビタミンCを摂るために8個のマスクメロンを摂る必要があるのか」と切り出した。そして食べ物で摂れないほどの数十倍のビタミンを1粒か2粒の錠剤で摂るのは危険だと主張した。
これはまさにFDAの主張に沿うものだった。しかし彼女の危険だとの主張に科学的根拠はほとんどなかったのだろう。今ではアメリカの栄養摂取基準(RDIs)に定められている13種のビタミンのうち、6種類にこれ以上摂ると過剰症になるという理由で上限が設定されている。しかしその量はRDIsの2.5倍から600倍以下である。
結局、プロキシマイヤー議員の主張が通って、1986年にビタミンの量的規制は撤廃された。つまりサプリメントでのビタミンの大量投与が大手を振って可能になった。
「ビタミンを摂る自由を勝ち取ったんだ」と富田さん。国が新たな規制を始めると理不尽だと思っても、たいがい泣き寝入りをする日本に比べて、さすが自由と民主主義の国だと感心した。
講演が終わると、ウエスト理事長に別れを告げて、今度は展示会のサプリメントゾーンの見学に移った。ナチュラルフーズのゾーンと並ぶ巨大なスペースで、ブームの影響もあってかやたらにビタミンの企業が目立った。なかでもトンプソン社のブースが目を引いた。なんでも1932年創業というから老舗中の老舗らしい。つまりこの頃から米国のビタミン市場が始まったのだろう。ブースに立っている愛想のいい社員からいくつかのサンプルの錠剤をもらった。飲んでみろとの仕草をするので、口に入れようとしたが、錠剤が日本に比べて巨大なことに気づいた。
「こんなのノドを通らねエ」と思わず口をついて出た。意味が分かったとみえて、水の入った容器をくれた。なんとか呑み込めたが、ノドから食道にかけて、なんだかつっかえているような違和感が残った。
「錠剤だけじゃないんですよ」と通訳のおばさんがいう。この国は日本と比べると多くのものが大きいそうだ。そういわれてみるとそうだ。人も2階から見下ろされているようなノッポの大男がいるかと思えば、まるで巨大なリンゴのようなお尻をしたとてつもない肥満の女性も大道を闊歩している。スーパーマーケットで売られている清涼飲料のボトルがいくら巨大でも、ハンバーガーが口に入らないくらい厚くても、土産に買ったTシャツにすっぽり2人が収まりそうでも、この国では別に驚くには当たらないのである。錠剤くらいで驚いていてはいけないということらしい。
そんな話をしながら会場内を歩いていると、あるブースに日本人らしき人が立っている。
思い切って声をかけると「ハイ」と日本語が返ってきた。社名はメイプロという。ニューヨークの会社で、その日本人は山田進と名乗った。
(ヘルスライフビジネス2016年5月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)