権威の先生でも食物繊維の働きを知らなかった(80)
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今の食生活にある栄養素が欠けている。それで病気が起こっているとしたら、それを補給してやる必要がある。食物繊維が足りなければ、それを補給してやることで、大腸がんや糖尿病を防ぐことができれば御の字だ。
「だから自然食品やサプリメントが必要なんだ」と渡辺先生はいう。
例えば自然食品なら有機農法で育てた玄米もあるし、全粒のパンもある。食物繊維には水に溶けないものと水に溶けるものの2種類があるが、白米(100g)では水に溶けない繊維は0.5gしかなく、水に溶ける繊維はまったく含まれていない。しかし玄米(100g)なら水に溶けない繊維は3g、水に溶ける繊維0.7gある。またパンにする精製した白い小麦粉と全粒の小麦粉では、白い小麦粉では水に溶ける繊維が1.2g、水に溶けない繊維が1.5gと比較的少なかったが、全粒の小麦粉では水に溶けない繊維が9.7g、水に溶ける繊維が1.5gもあった。もちろんビタミン・ミネラルなど他の微量栄養素でも両方の違いは大きい。
「だから日常の食生活はなるべく玄米や雑穀、全粒のパンなどの未精製なものが良いし野菜の多い食事が良いに決まっている」
しかし、それが摂れない場合にはサプリメントがあるという。例えば食物繊維のサプリメントに使われているオオバコの一種でサイリウムというのがある。この種を粉にしたら100g中90gもの繊維を含んでいるそうだ。しかも不溶性が4に対して水溶性は1の割合とも言われる。大さじ1杯で9g程度だから8gの食物繊維が摂れる。食事からの摂取を考えると、案外に簡単に必要量が摂れる。原料の大半がインドらしいが、米国のサプリメントの店の店頭である時期からよく見かけるようになった。しかし当時の日本ではまだ販売されていなかった。サンゴ草の健康食品か小麦胚やふすまくらいしかなかった。
食物繊維の勉強を終えると先生が手書きの資料のコピーをくれた。記事にしろということだ。一番弟子を自任している葛西博士は思わずそれを受け取った。
「なんだよ、木村君。あなたもたまには書いたらどう」と帰り道に博士は不満そうだ。いつも僕ばかり書かされて、と言いたいのだろう。そう言いたくなるのも無理もない。書くのは良いとして、資料を読むのが一苦労だ。渡辺先生の資料はいつもペンで書いてある。大正時代の初めに生まれただけに、まるで筆字のようで私たちには達筆過ぎて読めない。
ただし印刷所に文選の人に言わせたら、「あんたがたの字の方が訳が分からない」そうだ。しかし筆もろくに持ったことのない我々からすると、まるで古文書を解読するようなものだ。とにかく大変だ。しかも書いてあることがことだけに、専門用語や英語などが入り混じって、私などには解読不能な個所さえある。
しかし葛西博士は当初「書いたら覚えるので得だ」と言っていた。しかしその農芸化学の分野を学んだ彼でさえ、骨が折れるのだろう。
「ところで…」と博士は話題を変えた。日本にも食物繊維の良いサプリメントがあるという。聞くとクロレラのことらしい。ビンから錠剤を手に平にこんもりと盛り上げる仕草をした後、「鯉のように口をパックリと開けて、ガバットと口の中に入れる」という。そしてコップ一杯の水でゴックンと飲み込むのだそうだ。すると永い眠りの後、翌日の朝には“ウンコ”となって出てくるというわけだ。
「それが黒い、黒い、真っ黒いウンコなんだよ」なんだか話が下品になって来た。青森の野生児、いや原始人葛西博士の面目躍如たるところがだが、どうもリアルでいけない。
「なぜ黒いかわかるかなァ~」と私の方に顔を突き出して凄んで見せる。当然、そんなことこちらに分かるわけはない。「クロレラなんだよ」という。クロレラの細胞壁は食物繊維と一緒だから、消化されないで便と一緒に出てくるのだそうだ。
後日、有名な国立大学の先生に会った。食物繊維の話をしたら、「ああ、あれは腸の中で消化されないで、ウンコになって出てしまう」だから栄養素ではない。いらない食べ物のカスだという。当然、バーキット博士も知らなかった。それ以来権威と称される先生のいうことでも鵜呑みにしないことにした。
(ヘルスライフビジネス2017年8月1日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)