身体への影響は薬だけでなく食品にもある(91)

2024年5月28日

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「『食品は除く』とはどういうことだ」というと、「だってそうじゃあないか」と葛西博士は自分の考えを話しはじめた。これは長くなりそうだが、こちらも興味があるので、高説を有難く賜ることにした。

彼によると、法律の薬の定義にある「身体の構造」とは、例えば筋肉や骨格または内臓のようなもののことだという。これらの身体の様々な器官は何からできているかといえば間違いなく食べ物に含まれる栄養素からできているに決まっている。

「オギャーと生まれてから大人になるまで、薬を飲んで大きくなった覚えはない」と出た。幼児のときはお母さんのオッパイであり、それ以降は茶碗に盛られたご飯であり、美味しいおかずを食って大きくなった。学校に上がるようになると給食だ。脱脂粉乳だけは食欲はわかなかったが、カレーはお代りもした。

だからというわけではないが、小学校の高学年から中学校の間はみるみる背丈が伸びた。毎月伸びて、つい先だって買った靴が瞬く間に履けなくなって、数か月前に買ったズボンの丈が短いと親を困らせた。そうして178cmの上背のある立派な男になった。だから身体の成長に影響を与えたのは間違いなく食品であり、栄養素だったと思うという。


「やっぱりそうだよなァ」というと、葛西博士は大きく頷いた。だから身体の構造の大半は食べたもので出来ていることは間違いない。身体の機能だって栄養によって動いている。様々に身体を動かすエネルギーは炭水化物や脂肪が基になっている。

「そんなことは小学生でも分かることだ」
いくら法律で医薬品の役割だといわれても、そんなこと納得する人はいない。まずは食品や栄養の役割だと思うのが常識だろうという。

「確かに身体の構造・機能に影響を与える主役は食品だ」というと、博士は「では、薬にそうした役割はないかというと、そうでもないから面倒だ」という。いわれてみれば骨を強くしたり、血圧を下げたりする薬はある。

しかし、これは病気になってからの話だ。病気を治すときに薬が身体の構造や機能に影響を与えることは間違いない。ただし、これは病気やケガなどのように、すぐに治さなければならないときに限られる。つまり身体が健康な状態ではないときだ。

「こうしたときは医薬品が主役になる」
葛西博士の話は珍しく説得力がある。

もちろん食品や栄養でも病気に役立つ。しかしこの場合はあくまでもわき役だ。薬も食品も身体に良い影響も悪い影響もある。
「ただし、影響の現れ方が違うと渡辺先生が言っていた」

ここまで来てやはりそうかと思った。彼が自慢げに語った内容は、ほとんどが渡辺先生と上田寛平さんの座談会のときの受け売りのようだ。それならばそれで合点がいく。とにかく薬は病気やケガのようなもので、緊急事態が発生した場合に必要なので、こうした定義をしたのではないかという。

しかし、病気やケガでも食品や栄養が治す効果はある。感染症になっても治すのは自分に備わった免疫力だ。免疫は栄養状態の影響を受ける。だから結核だって、食事療法がおこなわれてきた。ケガだってよほどでなければ、栄養状態を良くすれば治りも早まる。つまり薬も食品も身体の構造機能に影響を及ぼすのだ。


ただし、両者には即効性と遅効性の違いがある。だから薬事法の2条の薬の定義に「食品を除く」という文言が付いていたのだろう。

(ヘルスライフビジネス2018年1月15日号「私の故旧忘れ得べき」本紙主幹・木村忠明)

※第92回は6月4日(火)更新予定(毎週火曜日更新)