【規制】効果の根拠に関する規制はどうなる(39)

2024年6月19日

※「ヘルスライフビジネス」2024年2月1日号掲載の記事です。                        解説が延び延びになっている昨年12月19日公表の機能性表示食品(キノウ)広告への措置命令については、1月15日号4面のインタビューで触れたのでそれを参照して頂きたい。ここでは前回に解説したインシップ社への消費者団体訴訟について補足したい。岡山地裁と広島高裁の判断は、消費者庁の規制基準を批判・否定したものではないというのが筆者の見解だが、今回問題になった一般健食の効果の根拠、暗示表現、体験談などの規制が今後どうなるかについて言い足りない点があった。また、今後の消費者団体訴訟には影響があるはずで、それらについて述べる。

今後の健食広告規制に対する地・高裁判断の影響の検討

今後の消費者団体訴訟への影響は予測できる

効果の根拠に関する規制はどうなるか

 この訴訟では原告の消費者団体は、素材のノコギリヤシの頻尿改善効果に関する否定的な研究があることから、広告が虚偽誇大になると主張した。それに対し地裁は、肯定的な研究もあるとして「一定程度の頻尿改善効果の可能性」があるから、広告が虚偽誇大とまでは言えないとしてその主張を退けた。

 この判断により、一般健食の素材の研究から効果の可能性があるとされて広告での効果の標ぼうが可能になることはないと筆者は考えている。この判断は、不実証広告規制の権限がない消費者団体を前提にしている。権限を持つ消費者庁が、提出された研究資料に根拠がないと判断したのであれば、それを裁判所が否定することはないはずだ。

 言うまでもないが、効果の研究の存在だけで効果の標ぼうができれば、キノウの届出やトクホの審査を経ずに効果の標ぼうが可能になる。今回の裁判所の判断が、そのような混乱を意図していないことは明らかで、不実証広告規制に関する規制基準の変わることがないのは当然であろう。

暗示表現に関する規制はどうなるか

 「中高年男性のスッキリしない悩みに」といった暗示表現についても、今回の地裁の判断は消費者庁の規制基準と相違した。同庁の規制基準では「頻尿改善」が使えないことを承知した上での工夫ではないかと疑われるので、広告全体から○×が総合的に判断される。

 それに対して地裁は、頻尿の暗示は認めながら「改善」を暗示していることは認めなかった。これが暗示表現に関する同庁の規制基準を批判・否定するものであれば、今後の同庁の規制に影響するが、そうではないと筆者は理解している。

 高裁が指摘しているように、消費者団体には消費者庁と異なり、広告主に根拠資料を請求して根拠の有無を判断する権限はなく、根拠のないことの立証がなければ、裁判所は広告主側の証拠から効果の可能性を認めざるを得ず、医薬品的効能効果を誤認させるとまでは言えない、ということになったわけである。

 つまり、同庁が根拠資料を請求して根拠不実証としたことを裁判所が問題にしたわけではなく、同庁がそれを行わなかったことを問題にしたと筆者は理解している。

体験談と打消し表示への規制はどうなるか

 前項と同じことが、体験談と打消し表示についてもいえる。

 地裁はこの広告における「飲んでみたら、早めにスッキリしたので、大変うれしく思っております」「寒い時期も乗り切れそうです」といった体験談を抽象的記載に留まり頻尿改善効果を暗示するものではないとした。

 この判断自体は同庁も異論はないはずだ。暗示を疑われるとしても、効果の暗示と断定まではしにくいと思われる。

 しかし「すべて個人の感想で、効果を保証するものではない」という脚注があるから、消費者は効果があると誤認しないはずだという地裁の判断には、同庁は承服できないと思われる。

 体験談から効果があると消費者が誤認するか否かは体験談の内容で判断されるのであり、打消し表示で判断するわけではないというのが一貫した同庁の規制基準であるのは言うまでもない。しかし、これも地裁が同庁の基準を否定しているわけでなく、効果の可能性を前提にした上での判断であることは、前項と変わりはない。

今後の健食広告規制への影響のまとめ

 筆者の理解では、インシップ社(I社)の広告に対して消費者庁が措置命令を行わなかったことが問題にされたことになる。そこで、それについて検討すると、措置命令を行いにくかったのではないかと思われる。I社の広告と、措置命令を受けた広告主D社の行政訴訟で最高裁が措置命令を認めた広告を比較するとそのように思える。

総合的にみて、D社の広告のほうがI社の広告よりも、効果の暗示の程度が高いように思える。

同じ暗示表現でも、D社は措置命令に適するが、I社は適さないという判断があったのではないかと筆者は推測している。

そうすると、この消費者団体訴訟は、処分しにくかった同庁の意を酌んで行われたことになるが、もちろん、まったくの憶測である。

 いずれにしても、I社の広告表現はグレー表現の典型であり、○×の判断が保留されやすいことは、今後も変わりないはずである。

それに対して、景表法30条の「適格消費者団体の差止請求権」に関する規定への影響のほうが大きいように思われる。今回の地・高裁の判断に基づけば、消費者団体が提訴しにくくなることは間違いない。その点を筆者は注目している。


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